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退職金課税はなぜ“聖域”だったのか?
〜政府税調増税案の深層〜
●  ズラリと並ぶサラリーマン増税メニュー
  石弘光会長率いる政府税制調査会(以下「政府税調」)が6月21日に公表したいわゆるサラリーマン増税と言われる報告書によると、雇用形態や家族構成の変化に対応した税制の構築が必要と、様々な増税メニューが提示された。
  その中でも目玉とされる項目は、給与所得者の経費相当である「給与所得控除」の縮小、退職金への課税強化、配偶者控除の見直しである。また、事業所得者である自営業者に対しては、帳簿管理の厳格化や納税者番号制度の導入が提言され、徴税の強化が鮮明となっている。これらは税の公平性を確保していこうという思惑だ。
  今回は、これらの中でも大きな増税となる可能性がある「退職金への課税強化」を取り上げたい。
  石会長は、5月13日の記者会見でも、給与収入より退職金が課税上、有利になる可能性がある現状を改める意向を示していた。また、政府税調は、勤続年数が20年を超えると有利に働く現在の退職金課税について、「終身雇用制度を前提にしており、転職などが一般化した現状に合っていない」と判断し、勤続年数にかかわらず負担を平準化し、給与収入との課税格差を縮小する方向で今後検討する見通しである。
●  退職金課税の現状
  退職金の課税方法というのは、以下の算式による。
  退職所得金額=(退職金の収入金額−退職所得控除額(注))×1/2
(注) 退職所得控除額
勤続年数
退職所得控除額
20年以下
40万円×勤続年数(最低80万円)
20年超
70万円×(勤続年数−20年)+800万円
  退職金課税の有利な点は、(1)退職所得控除の存在、(2)1/2課税、(3)分離課税――などがある。また、相対的に勤続年数が長くなるほど有利になっている。
  こうしてみると、明らかに他の収入に比べると有利な税制であるといえる。
●  “聖域”化した退職金課税で得する人々
  政府税調が退職金課税を見直すきっかけとなったのは、昨今の外資系企業の給与形態によると言われている。一部の外資系企業では、高所得者層を中心に雇用契約を3年や5年といった短い期間にしたうえで、本来は給与で支給を受けるべき分を「退職金」として受け取り、税負担の軽減を図っている場合があるようだ。
  しかし、よくよく考えてみると、この税制上有利な退職金課税を一番うまく使っているのは外資系ではなく、いわゆる天下りという方々ではないかと思う。ある会社で名誉職的な地位を得て給料をもらい、退職金ももらって次の企業へと渡り鳥していく。もしかしたら、こういった高級官僚の抵抗もあって現在までこの「退職金課税」は聖域となっていたのではないだろうか。
(今村 仁、今村仁税理士事務所代表、税理士、宅地建物取引主任者、1級FP技能士)
2005.07.11
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