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社会保障の公私サービス使い分けに“戸惑い”
〜厚生労働省が初の意識調査〜
●  社会保障に対する意識を探る初調査
  さる7月5日、厚生労働省政策評価官室が「平成15年社会保障に関する公私機能分担調査」というデータを発表した。年金・医療・介護・育児などの社会保障制度をめぐって、公的・私的サービスの利用割合や各制度に対する国民の信頼度などを調査したもので、今回が第1回の実施となる。
  すでに調査から2年が経過しているため、現状をどこまで反映しているのかという疑問と同時に、社会保障をめぐる論議が激しさを増すタイミングでの発表に、何らかの政策的意図があるのではという勘ぐりがないわけではない。とはいえ、国民の社会保障に対する意識を表すものとしては、大変に興味深いデータである。
●  年金給付水準の抑制を半数以上が容認
  例えば、「今後の望ましい老後の生活設計」を尋ねた項目では、「公的年金に要する税や社会保険料の負担が増加しても、公的年金のみで充足できるだけの水準を確保すべき」という“負担増容認”派は31.4%。これに対し、「公的年金を基本としつつも、その水準は一定程度抑制し、企業年金や個人年金、貯蓄などを組み合わせて老後に備えるべき」という“水準抑制容認”派は55.0%にのぼっている。
●  老後資金の不足分は「個人年金」より「貯蓄・退職金」
  一方、「老後の生計を支える手段として頼りにするものは何か」という問いに対しては、「まず公的年金」と答えた人が55.3%と約半数。「では2番目は?」という質問になると、「貯蓄または退職金の取り崩し」と答えた人が21.2%で最も多く、「個人年金」と答えた人は4.6%にすぎない。給付水準の抑制を容認しつつも、現実に公的年金を補うとなると「貯蓄や退職金」に頼らざるをえないという現実が浮かび上がってくる。
  現在の年金改革法が成立したのは平成16年であるが、その2年ほど前から年金改革論議は盛んになっていた。つまり、公的年金に対する不信がクローズアップされ始めた頃の調査であり、「公的年金だけでは安心できないが、個人年金をベースとする積極的な資産設計にはまだ踏み込めない」という戸惑いを調査から読み取ることができる。これが現在であるなら、「個人年金」などにかかる期待はもっと膨らんでいるかも知れない。
●  意外と低い民間保険への依存度
  さらに、「民間の医療保険や介護保険への加入状況」を尋ねた項目では、「加入している」が61.6%。この項目に限っては同種の質問を平成10年にも行っているが、その時には「加入している」が57.9%となっている。平成12年に公的介護保険がスタートして、保険からの給付限度額や原則1割という自己負担率がはっきり示されたにもかかわらず、民間保険への依存度は思った以上に増えていない。やはり、ここでも、公と民の使い分けに対する"戸惑い"を読み取ることができる。
  調査から2年、いまや「社会保障関係費の伸び率を経済成長率に連動させて400億円近く抑える」などという方針が堂々と語られるご時世である。国民の生活防衛に向けての意識はどこまで進んだのか。民間の保険・年金商品は国民の戸惑いをカバーする所まで進化しているのか。様々な課題を検証するうえで、今回の調査結果は貴重なたたき台になるかも知れない。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.07.19
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