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これからの社会保障は<地域>が支える―平成17年度版厚生労働白書
●  <地域>の視点で社会保障ビジョンを展望
  尾辻厚生労働大臣は、7月29日の閣議に「平成17年版厚生労働白書」を提出し、了承された。今年の厚生労働白書が掲げたテーマは「地域とともに支えるこれからの社会保障」。<地域>という視点から、今後の社会保障サービスのあり方を提言しており、昨年度の同白書「現代生活を取り巻く健康リスク」から、一転して時代にあわせた内容となっている。
  白書が提言するこれからの社会保障ビジョンは、地域の特性を踏まえ、住民のニーズを的確に把握し、国と地域が十分に連携して「地域とともに支える社会保障」を構築していくことが地域で安心できる生活の実現につながる、という内容。アンケートの調査結果なども豊富に盛り込みながら、基調となるこのビジョンを丁寧にまとめており、これからの社会保障を構想する際の、代表的な資料になることは確かである。
●  ネット社会でも消えない<地域>への帰属性
  白書によると、都市化の進展により地域の機能や役割には変化が生じているという。世論調査の結果でも近所付き合いの度合いは確実に低下しており、地域における住民同士の関係は、希薄化の傾向にあるといわれている(下記グラフ参照)。
  実際、都心のマンションでは、隣に誰が住んでいるか、顔すら知らないというケースも珍しくない。近所の住民との交流はほとんどないが、その一方でインターネットを通じてなら、趣味や嗜好を同じくする人との交流に積極的になれる人が増えているのが実態であろう。
  このように、<地域>は見る影もなく崩壊しているように見えるが、個人の地域への関心は必ずしも弱まっているわけではなく、例えば、世論調査では、「居住する地域を良くする活動ができる時間・機会」について、「きわめて重要である」または「かなり重要である」と回答する者の割合は5割前後で推移している。つまり、重要であると考える人の割合は、ネット社会が進展してもさほど大きく変化してはいないのである。とても興味深い意識構造ではないだろうか。
●  地域ニーズにリンクした社会保障サービスを
  地域ごとの社会保障サービスに対するニーズは、その地域の人口構成や経済状況、住民の暮らしぶりなどの地域の特性に応じて優先度が異なり多様なものとなっている。
  例えば、「雇用の確保や失業対策」については、第2次産業比率が高く、就労環境に恵まれている地域では、このニーズは比較的低く、産業に比較的乏しいと見られる地域では雇用施策に対するニーズが強い傾向があり、そこには大きな地域差が横たわっている。「育児支援」「老人医療・介護」「健康の維持・促進」についてみても同様に地域差がみられる。
  社会保障サービスと地域との関わりを考える上では、このように地域ごとの様々な要因から生じる地域差について、何が是正すべき格差であるかなど分野ごとに考察する必要があるのではないだろうか。
  少子高齢化社会、さらには人口減少社会が進展していく中で、社会保障制度については国と地域の役割分担・連携をどのように工夫していくかも今後の大事なポイントとなっており、今後の動きには注目していく必要がありそうだ。
【近所付き合い程度の変遷】
【近所付き合い程度の変遷】
データ出所:内閣府「社会意識に関する世論調査」から厚生労働省政策統括官付政策評価官室作成
参考:「平成17年版厚生労働白書 地域とともに支えるこれからの社会保障」
(庄司 英尚、庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2005.08.08
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