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地域包括支援センターが衆院選を左右?
〜介護保険制度と郵便局ネットワーク〜
●  地域にネットワーク築く新しい仕組み
  今国会の焦点であった郵政民営化法案が参議院において否決され、小泉首相が衆議院を解散、9月11日投票の日程で衆議院議員選挙が行われることになった。
  この解散のあおりを受け、審議中の障害者自立支援法案などが廃案となったが、解散のタイミングが早まっていれば、介護保険法改正もどうなっていたか分からない。
  滑り込みで成立した感のある改正介護保険法であるが、実は、今回の選挙が郵政民営化を最大の争点とした場合、新しい介護保険の仕組みが思わぬところで選挙結果を左右するかも知れないのである。
  改正介護保険制度では、「地域包括支援センター」という新たな機関が設けられることになったが、ここに郵便局というネットワークが絡む可能性があるからだ。
●  郵政民営化の一方で地域に準公的機関出現?
  地域包括支援センターは、新たにスタートする介護予防事業をマネジメントする機関である。だが、実際は介護予防にとどまらず、地域で一人暮らしをしている高齢者や要介護者を抱える家族などから、様々な相談を受け、それをしかるべき機関につなげる「よろず相談拠点」のような役割も果たす。
  その際、厚生労働省が繰り返し通達しているのが、センターの中立・公正に関してである。センターの設置主体は原則として市町村であり、民間に委託する場合でも中立・公正が確保されることが前提となっている。現行の在宅介護支援センターのように、居宅介護支援事業を掛け持つ法人には委託されないというのが、おおかたの見方だ。
  つまり、民間の社会福祉法人や医療法人が委託を受ける可能性は低く、センター事業を委託するために新たな法人を立ち上げるケースも出てくるのではないかと考えられる。
  いずれにせよ、地域福祉に関して強い発言力を持つ準公的機関ができるわけだ。同じく地域に根強いネットワークを持つ郵便局を民営化しようとする一方で、まったく逆のことを国はやろうとしているのである。
●  介護を支える郵便局ネットワークの“存在感”
  さて、この地域包括支援センターに対し、監督・指導を行なう立場の機関として、運営協議会というものが設置される。これは、やはり市町村が責任主体となって設置するもので、メンバーには地域の介護保険事業者のほか、医師会等の職能団体、サービス利用者や被保険者の代表なども含まれる。
  さらに、各地域の実情に応じて、参加することが適当と思われる団体等も「参加を認めていい」という通達がなされている。ここで頭に浮かんでくるのが、郵便局というネットワークである。
  そもそも高齢化する過疎地などでは、一人暮らしの高齢者の安否確認や見守りを行なうネットワークにおいて、郵便配達員が役割を担っている例が多々ある。また、郵便局自体が、年金受け取り窓口としての機能を活かしながら、介護相談や生活相談に乗るケースも見られる。地域ケアの舞台において、郵便局を無視できないという実情を抱える地域は、意外に多いと思われるのだ。
  そして今回の総選挙である。
  郵便局が、自分たちの存在意義を訴える場として、運営協議会への参加を求める場面が出てくるかも知れない。高齢化する有権者は、介護や福祉といった言葉に敏感である。
  はからずも国が作った仕組みが、政権の思惑とは逆の投票行動を生み出すとすれば、何とも皮肉な話である。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.08.15
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