>  今週のトピックス >  No.1090
「サラリーマン増税」報道に隠されたもの
〜封印された論点を暴く〜
●  サラリーマンは“千差万別”
  政府税制調査会が6月に個人所得課税の抜本改革の方向性を示す「論点整理」を公表して以降、マスコミを中心に「サラリーマン増税」との批判が渦巻いている。今にはじまったことではないが、このマスコミの薄っぺらな表面だけの“正義の味方”気取りにはうんざりするものがある。どうもマスコミは「サラリーマン」の代弁者であるらしいが、そもそも「サラリーマン」とはどのような国民層を指しているのであろうか。
  「サラリーマン増税」という場合の「サラリーマン」とは、多分に「住宅ローンを抱え、わずかな小遣いでやりくりしている勤労者」がイメージされると思われる。確かに、平均像としては当を得ているかもしれないが、なかには節税のために法人を作り高額な役員報酬を得ているサラリーマンもいれば、先日の長者番付で全国1位となった収入100億円を超えるサラリーマンもおり、その実態は千差万別なのである。
●  “サラリーマン狙い撃ち”ではない!
  また、わが国の納税者は、9割以上をサラリーマンが占めている。就業者の8割を占める5千数百万人のサラリーマンのうち、4千万人強が納税者で、自営業など事業所得者の納税者は180万人、農業所得者の納税者は14万人しかいない。国・地方を合わせて700兆円を超える借金(2005年度末見込み)を後世代に残さないために財政再建を目指し、負担増を求める対象はおのずと納税者の大多数を占めるサラリーマンになるのは自明の理である。
  何も“サラリーマン狙い撃ち”でもなんでもないのだ。であればマスコミは「サラリーマン増税」などと批判する前に、なぜ増税が必要であるかを噛み砕いて説明し、また、増税と同時に実現しなければならない徹底した歳出削減に資する取材が本筋なのではないか。
  道路公団の談合や社会保険料収入の杜撰な使途などは氷山の一角で、国民はマスコミに対し税金のムダ遣いの実態を解明できる唯一の公器として期待しているのだ。
●  給与収入100億円なら5億円強の所得控除
  話を所得課税抜本改革に戻せば、政府税調が提案する見直しの方向は、サラリーマン―というより国民一人ひとりが負担増となるが、特に負担増となるのは高額所得者層となる項目が少なくない。給与所得控除の見直しでは、現行は給与収入に応じて給与収入500万円で控除額154万円など、平均給与収入総額の3割程度が控除され、勤務費用の概算控除としては過大すぎるとの批判がある。
  たしかに、給与収入500万円で控除額154万円は高いのであろう。
  ところが、もっと問題なのは給与所得控除が青天井で認められるということなのである。給与収入1,000万円を超える場合は、「収入金額×5%+170万円」で算出した額がいくらになろうと認められるのだ。給与収入100億円であれば、なんと5億円強が所得控除される。勤務費用が5億円なんてことは馬鹿げているが、なにせ青天井なのだ。
●  退職金課税で優遇される天下りOB
  まだある。退職金課税が見直されて困るのも一部の高額所得者だ。ほとんどの人が、20年を超えると優遇される現行制度を見直すほうに目がいきがちだが、2分の1課税が残ればダメージは少ない。問題は短期間での勤務に支払われる退職金も2分の1課税できることが見直されることだ。これは、一部の外資企業が退職金課税での優遇措置を乱用した租税回避がみられるので防止策を検討するといわれている。
  ところが、外資系企業の乱用なんぞはほんの一握りに過ぎない。見落としているのは、天下りOBが特殊法人や公団などを渡り歩き3年前後でもらう退職金にも2分の1課税が適用されることである。短期間の勤務に何千万もの退職金を出す構造に目を奪われがちだが、そのうえ税金面でも優遇されているのである。なぜいままで問題視されなかったのか不思議なくらいである。
  このように、「サラリーマン増税」と薄っぺらに批判することで見えなくなっているものが数多い。100億円稼ぐサラリーマンも何度も退職金2分の1課税を利用する天下りOBも一緒くたにして「サラリーマン増税」などと批判するマスコミの浅はかさがおわかりいただけただろうか。
  また、「サラリーマンに(税負担を)お願いするしかない」との石税調会長の発言にうろたえる自民党に本当に財政再建ができるのか。
  ともあれ、9月11日の総選挙で国民が何を選択するのか、注目するしかない。
(浅野宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2005.08.22
前のページにもどる
ページトップへ