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役員賞与が損金算入になる!?
〜経済産業省が見直しを要望〜
●  役員賞与は利益の処分であるから損金不算入
  法人税法上、長らく損金不算入とされてきた役員賞与の取扱いが見直される可能性がでてきた。
  経済産業省は、2006年度税制改正に向けた要望のなかで、現行では損金不算入とされている役員賞与・業績連動型役員報酬に係る課税の取扱いについて、新会社法や会計基準の考え方との整合性、国際的な取扱いや租税回避防止の観点を踏まえ、時代に適合した税務処理のあり方について議論していく必要性を求めていく考えを盛り込んだ。
  現行の法人税法における取扱いは、役員賞与は利益獲得のための費用ではなく獲得した利益の処分であるとの考えから損金不算入とされている。また、業績連動型役員報酬についても、一般的にその算定が利益に一定率を乗じて行われるため、利益の分配との性格を有することから、賞与と同様に損金不算入とされてきた。
  さらに中小法人の場合は、決算賞与の支払によって法人の利益を比較的容易に調整できるといった、いわゆる租税回避の問題もある。
  このようなことから、現行の法人税法上では、役員賞与は損金不算入として取り扱われている。
●  新会社法を受け企業会計は費用処理に一本化の方向
  しかし、このような現行法上の考え方に対し、近年、従業員の給与が業績連動型となりつつある一方で、経営者たる役員の報酬が税務上定期定額制や類似基準による横並びを強要されてしまう制度は時代にそぐわなくなっているとの指摘がでてきている。
  加えて、来春に施行される新会社法において、役員賞与も利益処分ではなく報酬決議によることが明確化され、会計基準においても発生時に費用処理する方法に一本化される見通しなどから、税務上も損金算入すべきだとの意見が高まってきたのだ。
  新会社法では、利益処分案に係る権限を取締役会に委譲し、役員賞与その他取締役等に対して与える財産上の利益については、利益処分の手続きとは切り離し、株主総会の決議によって定めるものとされた。これまでは、多くの企業が、役員賞与について、利益処分により決議をし、支払うこととしていたが、このような処理を認めたまま、利益処分案に係る権限を取締役会に委譲することは、お手盛りの防止などの観点から妥当ではないとの考えである。
  このような新会社法の考えを受けて、企業会計においても、現在は支給手続きに応じて「未処分利益の減少」と「費用処理」に分かれている役員賞与の会計処理を、費用処理に一本化する方向にある。
●  プロの経営者の出現を妨げている業績連動型報酬の損金不算入
  また、主要先進国においては、税法上、役員賞与の損金算入が認められており、わが国の制度は特異な制度となっているとの意見も見直しの機運を後押ししている。
  アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどにおいては、役員賞与は原則損金算入となっている。例えば、アメリカでは、業績に連動して支払われる役員報酬は法人税の課税所得の計算上控除されるものとなっており、日米の違いがわが国企業の国際競争力をそいでいるとの声がある。さらには、業績連動型報酬の損金算入を認めないわが国税制が、アメリカ型のプロの経営者の出現を妨げているという意見もある。
  しかし、現行の法人税の考え方は、商法が利益処分という支給手続きを求めていたことだけを根拠にしているわけではない。役員賞与は功労報償としての性格を有するものと考えられ、これまでの大企業の利益処分経理にみられるように、一般に利益の処分として認識されているため、利益獲得のための費用ではないとの考え方だ。
  新会社法や企業会計の処理方法が変わろうと、税法での利益の処分という考えのハードルは高そうだが、まずは議論の俎上に乗るかどうかが注目されるところだ。
(浅野 宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2005.09.05
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