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介護予防の中身に新たな不安!?
〜介護予防ワーキングチームが中間報告発表〜
●  難航する制度構築論議
  来年4月から施行される新たな介護保険制度では、「介護予防サービス」の導入が大きな目玉となっているが、新サービスの具体的な中身や報酬についてはほとんど何も決まっていない。施行まで約半年に迫った今も、中身を煮詰める作業が延々と続いている。
  その作業を主に担っているのが、厚生労働省内に設けられた「社会保障審議会介護給付分科会・介護予防ワーキングチーム」である。さる8月30日、同ワーキングチームの第5回会合において中間報告案が提示されたので、そのポイントについて検証してみたい。
●  提示された新しい報酬体系
  特に注目したいのが報酬体系だ。現行の在宅サービスにおいては通所系も訪問系も時間単位の報酬単価が設定されている。これに対し、介護予防サービスにおいては、「最終的に自立した生活を目指す」という明確な目標設定がなされる点を考慮して、月単位の定額報酬をベースとしつつ目標達成に向けたインセンティブを働かせる仕組みが示されている。
  通所系サービスを例にとると、「運動器の機能向上」や「栄養指導」、「口腔機能の向上」といったメニューごとに単価を設定し、月単位で包括払いとする。そのうえで、「目標を達成したことによるサービスからの離脱」が認められるたびに、インセンティブを上乗せするとしている。(ちなみに、訪問系サービスにおいても月単位の定額払いを基本としているが、インセンティブの付け方については明示されていない)
●  インセンティブ導入で自己負担が増える!?
  この一連の報告を読んで「おや?」と思ったことがある。
  通所系サービスにおけるインセンティブを含めた報酬支払いについて、「各事業者に直接給付する」か、「地域包括支援センターを通じて各事業者に配分する」かという論点が掲げられている。報告では、「仕組みが簡単で分かりやすい」という点で「前者が望ましい」としているのだが、"課題"として「利用者の一割負担が発生する」という一文が掲載されているのだ。
  これは何を意味するかといえば、「目標を達成するとインセンティブの分だけ利用者の自己負担が増える」ということに他ならない。つまり、事業者に対してはインセンティブが働くが、利用者本人には働かないと言っているに等しいのである。そのことを考慮してか、報告書では「利用者本人の意欲を積極的に引き出すような制度上の仕組みも、長期的課題として検討が必要であると考えられる」という一文が添えられている。
  確かに「サービスから離脱」すれば一割負担は発生しないわけで、強いて言えばそれがインセンティブと言えなくもない。サービスの対象とならない人には、地域包括支援事業という介護保険外の受け皿も存在する。
●  看過できない新制度への不安感
  だが、それだけで果たして意欲を引き出すことができるのだろうか。
  利用者の中には、介護保険をセーフティネットの一環ととらえる心理が根強くある。「サービスを受けられなくなるかも知れない」という不安感は行政側が考える以上に大きく、受け皿についての説明がよほどしっかりなされなければ、インセンティブなど到底働きようがない。
  今回の介護保険改正は、その議論の当初から財政健全化ありきという流れが強く、それゆえに「利用者の不安感」にあえて目を向けないような空気が漂っていた。その歪みが、制度構築の最終段階で大きな影響を与え始めているのかもしれない。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.09.12
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