> 今週のトピックス > No.1113 |
労災保険の未手続きには要注意 | |
〜11月より費用徴収強化へ〜 | |
● 強制加入にもかかわらず未手続事業所が54万件!?
厚生労働省は、9月22日に労災保険の未手続事業主に対する費用徴収制度について徴収金額の引き上げや徴収対象とする事業主の範囲拡大を内容とする運用の強化を決定した。
この背景には、現在、労災保険の適用事業であるにもかかわらず、加入手続を行わない未手続事業所が多いという問題がある。推定では、未手続事業所の数は約54万件に上ると見られており、このような状況では適正に手続を行い保険料を納付している事業主からの不信を招きかねない。1日でも早い対応が求められている状態を受け、今回、11月1日から新たな運用強化をスタートさせることにしたのである。 ● 未手続事業主に対する費用徴収制度とは?
そもそも労災保険とは、政府が管掌する保険であり、原則として1人でも労働者を雇用する事業主は、保険加入の手続を行った上で保険料を納付することが義務付けられる強制保険である。
費用徴収制度とは、事業主が労災保険に係る保険関係成立の手続(以下「加入手続」)を行わない期間中に労災事故が発生した場合に、被災労働者に支給した保険給付額の全部または一部を、事業主から徴収する制度である。 現在では、加入手続について行政機関からの指導などを受けたにもかかわらず、事業主がこれを行わない期間中に労災事故が発生した場合、現行の取扱いでは「故意又は重大な過失により手続を行わないもの」と認定して保険給付額の40%を徴収している。 ● 費用徴収強化の2つのポイント
今回の費用徴収制度強化の主な内容は以下のとおりである。
(1)加入手続について行政機関からの指導等を受けたにもかかわらず、事業主がこれを行わない期間中に労災事故が発生した場合、現行の取扱いでは「故意又は重大な過失により手続を行わないもの」と認定して保険給付額の40%を徴収しているが、これを改め「故意に手続を行わないもの」と認定して保険給付額の100%を徴収する。 (2)加入手続について行政機関からの指導等を受けていないが、事業主が事業開始の日から1年を経過してなお加入手続を行わない期間中に労災事故が発生した場合、「重大な過失により手続を行わないもの」と認定して、新たに費用徴収の対象とし保険給付額の40%を徴収する。 ● 労災事故が起きれば会社倒産につながる恐れも
労災保険を軽んじている事業主も時々見受けられるが、その恐ろしさというものを具体的な事例で考えてみたいと思う。
例えば、賃金日額8,000円の労働者が労災事故で死亡し、その結果として遺族に遺族補償一時金が支払われることとなった場合、遺族補償一時金は賃金日額(給付基礎日額)の1,000日分であるため、行政機関から指導を受けていたにも係わらず未手続きだった場合は、徴収額は800万円となってしまう。また行政機関からの指導はないが適用事業となったときから1年以上経過しているにもかかわらず未手続きだった場合でも徴収額は320万円となる。これも簡単に支払うことのできる金額ではない。 今後政府は、全国的な広報活動を展開し、新たな費用徴収制度の周知に力を入れていくようであるが、未加入事業主は1日でも早く加入手続きを進め、万が一の場合に備えるのが健全な会社経営の第一歩ではないだろうか。 出所:厚生労働省「労災保険未手続事業主に対する費用徴収制度の強化について」
(庄司 英尚、庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
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2005.10.03 |
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