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成熟度を増してきた福祉機器市場
〜第32回国際福祉機器展を見て〜
●  国内最大の福祉機器展で見たもの
  去る9月27日から29日までの3日間、東京・有明の東京ビッグサイトで「国際福祉機器展H.C.R.2005」が開催された。このわが国最大の福祉機器展は今年ですでに32回。昨年に比べて出展企業の数は10社ほど少なくなったというが、実際に会場へ足を運んでみると、「本当にニーズのあるもの」が厳選され、福祉機器市場が成熟しつつある様子を実感することができた。
  特に実用性の高さを感じたのが、今話題になっている「介護予防」や「軽要介護者の悪化防止」をテーマにした品々である。口腔ケアに関連したグッズ類、軽要介護者の自立促進にスポットを当てたベッド、足腰が衰えた人でも使いやすいポータブルトイレなど、自立を進めるというテーマに力を入れた製品が質量ともに充実していた印象を受ける。
  昨年、介護予防機器の代名詞のように言われた筋力向上のトレーニングマシンなども、余分な機能を削ぎ落とし、必要最低限の機能を充実させることで使いやすくなり、価格もグンと安くなっている(昨年ならば、ゆうに50万円は超えていた機器類が30万円程度にまで抑えられている)。この一年で現場の声をかなり反映させたというイメージが強い。
●  ニーズの厳選で進化する介護グッズ
  現場の声を反映させたという点で、今回特に注目したのが「口腔ケア」に関するグッズである。介護保険の改正による新たな「介護予防サービス」では、一種のオプションサービスとして口腔ケアがメニューに上がる可能性が高い。サービス内容によって報酬が決まる包括払いシステムの導入がほぼ決定的となったいま、通所・訪問にかかわらず、現場のスタッフに積極的な口腔ケア研修をほどこす事業所も増えてきた。
  そんな中、いくつかの事業所を取材する中で出てきたのが、「口腔ケアを行なおうとしても、利用者がなかなか口を開いてくれず、時には指をかまれそうになることがある」とか「口を開けさせてブラシを使っていると、除去した歯垢などを唾液と一緒に誤嚥しそうになる」といった問題である。
  今回の福祉機器展では、こうした現場の細かい要望に応えたものがいくつかあった。例えば、前者の問題については「開口パッド」(口を開けさせる道具)が有効であるが、この先にライトを取り付けたり、歯や口の中を痛めない材質のものを使ったものがある。また、後者については、ブラシの先に吸引器を取り付けて、汚れを除去しながら同時に吸引できるというものもあった。
●  高齢者介護を照らす一筋の光明
  細かいことではあるが、介護事業所にとっては採算を取ることとリスクマネジメントを同時にこなさなければならない課題がある。介護保険財政が苦しくなる中で、そのしわ寄せがどんどん現場に押し寄せるとすれば、そこから上がる声に一つ一つていねいに応えていくことは、福祉機器メーカーの使命と言っていいだろう。
  かつて介護保険がスタートする際に、高齢者介護市場は数10兆円規模であるなどと言われ、メーカーがそれに躍らされていた感があった。そうした浮ついた雰囲気から一転、ようやく地に足のついた市場に生まれ変わろうとしている。今回の福祉機器展を見ると、わが国の高齢者介護にも薄明かりが差してきたことを感じさせてくれる。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.10.11
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