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日本と米国の間で年金加入期間の通算が可能に
〜日米社会保障協定の発効〜
●  「日米社会保障協定」締結以前のさまざまな問題
  平成17年10月1日、「社会保障に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」(以下「日米社会保障協定」)が発効となった。社会保障協定の発効の背景には、近年、増加している日本の事業所から海外にある支店や駐在員事務所などに派遣される日本人が、年金制度をはじめとする日本の社会保障制度と就労地である外国の社会保障制度にそれぞれ加入し、両国の制度の保険料を負担しなければならないという深刻な問題があった。
  また、派遣期間が比較的短い場合、外国の年金制度の加入期間も短くなり、年金が受けられないなど、外国で納めた保険料が結果的に掛け捨てになってしまう問題も生じていた。
  このような状況の下、日米間では1960年代から交渉が開始したものの、在留邦人が圧倒的に多い日本に有利なことからアメリカは一時的に交渉を中断していた。しかし、「世界と社会保障ネットワークを構築する」というアメリカの政策により、主要なヨーロッパ各国との協定締結後、日本との締結に至ったようである。
●  「二重加入の防止」と「保険料掛け捨ての防止」がポイント
  日米社会保障協定の発効により、今後は日本またはアメリカの社会保障制度のいずれかのみに加入すれば良いことになった。また年金受給権を得るために必要な加入期間は、日米両国の年金制度の加入期間を相互に通算することができるようになった点も魅力である。通算した場合の年金額は、両国それぞれの加入期間に応じた額が受給できることから保険料掛け捨ての防止につながっている。
  これまでは両国の制度の保険料を負担しなければならず、経済界ではアメリカに多くの拠点を持つ企業が同国で負担する年間保険料は総額800億円以上と試算している。しかし今回の協定により、この800億円の経費削減が可能になると推測されている。また、これまで掛け捨てとなっていたアメリカの年金の受給も可能になるのだ。具体的には、日米あわせて10年以上公的年金制度に加入していると米国の年金のみ受給でき(アメリカの老齢年金の期間要件は10年)、日米あわせて25年以上加入すれば、それぞれの国から該当する分の公的年金を受け取ることができることになる。協定の締結以前に相手国年金制度に加入していた者にも適用されるため、すでに年金生活を送る者にとって、毎月の受給額が増えることは大変ありがたいことである(老齢年金の申請手続きが受給権発生から6カ月以上経過した場合は時効が適用され、6カ月前の年金までしか遡って認められないので要注意)。
●  複雑な加入基準や通算受給の取り扱い
  日米社会保障協定を活用するには、制度の中身をよく知っておくことが肝心である。まず、両国どちらの社会保障制度に加入するのかというと、アメリカでの就労状況・期間により異なってくる。例えば、日本からアメリカへ派遣される場合、一時派遣(5年以内と見込まれる場合)なら日本社会保障制度だが、長期派遣(5年を超えると見込まれる場合)ならアメリカ社会保障制度に加入することになる。また、年金加入期間を通算する場合の取り扱いについても、日本の年金にアメリカの年金加入期間を通算する場合とアメリカの年金に日本の年金加入期間を通算する場合では異なっているので注意が必要だ。
  今後、発効が予定されているフランスやベルギー、交渉中のカナダ、オーストラリアなど各国との協定が広がっていくことが予想される。最近では日本人の海外での活躍がめざましく、2国間の社会保障協定制度を利用する人も増加してくるに違いない。その際には、相手国の保険制度によりそれぞれ内容が異なることを頭に入れた上で事前に計画を立てておけば、より有効利用できるのではないだろうか。
出所:社会保険庁「日米社会保障協定」
(庄司 英尚、庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2005.10.17
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