>  今週のトピックス >  No.1137
労働契約に関する公正・透明なルールの確立
〜労働契約法の制定〜
●  労働契約法制定の背景
  厚生労働省は、労使間で労働条件などを決める際の基本的なルールや手続きを定めた「労働契約法」の制定を目指し、動きだした。
  労働契約法制定の背景には、中途採用や派遣労働者の増加など就業形態が多様化する中で、労働契約の変更や解雇などをめぐる労使間のトラブルが増えている現状に対し、労働に関する最低条件を一律に定めた労働基準法などでは対応しきれなくなってきていることが挙げられる。厚生労働省では、労働契約法案をできれば平成19年の国会に提出したい意向である。
●  労使トラブルに改善のきざし
  厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の報告書によれば、労働契約法の基本的な考え方を(1)労使自治の尊重と実質的対等性の確保、(2)就業形態の多様化への対応、(3)労働関係における公正さの確保、(4)紛争の予防と紛争が発生した場合への対応、としている。
  また、同法の性格を(1)労働基準法とは別の民事上のルールを定めた新たな法律、(2)履行確保のための罰則は設けず、監督指導は行わない、(3)強行的な実体規定のほか、手続規定や任意規定、推定規定なども活用、(4)労働基準法についても労働契約に関するルールの明確化等の観点から見直しを行う、としている。
  現行の労働基準法では労働契約に関する規定が少なく、労使間の労働契約上のトラブルに、十分対応できていない。労働契約法が制定された際には、労働契約法と労働基準法とがあいまって、時代とともに変化する雇用環境に対応した適正な労働関係が実現する見込みである。
  また、労働契約法の具体的内容として(1)「労使委員会」の設置、(2)採用内定取り消しのルール、(3)解雇の「金銭解決制度」の創設、(4)出向や転籍ルールの明確化、(5)有期労働契約の雇い止めのルール、などが提案されている。
  これらが制定されれば、労使委員会による労使当事者が対等に交渉できる場の実現や金銭解決制度により解雇無効の場合に金銭補償の道が開かれるなど、労使トラブルに係る諸問題が大きく改善されると思われる。
●  労使双方のバランス感覚に注視
  労働者の就業形態・就業意識の多様化、経営環境の急激な変化や労使間トラブルによる個別労働関係紛争の増加といった労働環境を取り巻く状況の変化は、かなり以前から始まっていた。実際に、経営者、労働者の双方から現状に対応しきれていない労働基準法の改定を望む声も数多く上がっていた。
  今回の労働契約法の制定は、こうした経営者と労働者の平等な労働条件を実現するものとして大いに期待できるものである。今後、労働政策審議会の調査審議に入るが、構成員である公益代表、雇用主代表、労働者代表それぞれの意見の隔たりはまだまだ大きく、紆余曲折が予想される。しかし、願わくは徹底した調査審議のうえ、労使双方にとってバランスの取れた内容となることを期待してやまない。
出所:厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告書
(庄司 英尚、庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2005.11.14
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