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生活保護費分担を巡る国と地方の対立
〜三位一体改革の攻防に見る日本の将来像〜
●  国庫負担率引き下げは地方への責任転嫁!?
  国と地方の税財政を見直す、いわゆる「三位一体改革」を巡り、関係諸団体・省庁間の綱引きが激化している。特に、大きな焦点となっているのが、「生活保護費の国庫負担率を下げる」という厚生労働省側の提案である。
  11月4日、同省が示した案によれば、生活保護費のうち、(1)生活扶助・医療扶助・介護扶助などの国庫負担率を現行の4分の3から2分の1に引き下げ、その分地方の負担比率を引き上げる、(2)住宅扶助・教育扶助・出産扶助などについては、一般財源化して全額地方に権限委譲する、というものだ。
  これに対し、全国知事会をはじめとする地方6団体は反発の姿勢を強め、生活保護の国庫負担割合の引き下げには一切応じられない旨を改めて強調した。6団体のうち、指定都市市長会に至っては「生活保護費国庫負担金等に関する緊急アピール」を発表し、「このようなことが強行されるのであれば、指定都市としては法定受託事務である生活保護事務を国に返上せざるをえない」とまで訴えている。
  しかしながら、厚生労働省側は14日、内閣府から割り当てられた補助金削減目標額(7省で総額6,300億円)の回答に際しても、やはり生活保護費の国庫負担削減の姿勢を崩さない。態度を硬化させた地方側は、一部の自治体で、早ければ10月から厚生労働省への生活保護に関する月次データの提出を停止するなどの動きを見せ始めている。
  国と地方の対立がエスカレートする中、11日に開催された内閣閣僚と地方6団体の代表者協議においては、さすがの小泉首相も「地方の意見を尊重していく」という発言に終始せざるを得なかった。この言説を取った地方6団体側は、さっそく会長コメントの中に「(厚生労働省の検討案は)『地方の意見を尊重して』改革を行うと繰り返し言明している小泉首相の意向にも反するものである」という一文を掲載するに至っている。
●  生活保護受給者予備軍は現役世代の年金未納者たち
  そもそも、昨年8月の段階で、地方6団体は小泉首相あてに3兆2,000億円の国庫補助負担金改革案を提出している。その中には、生活保護費の国庫負担金については触れられておらず、厚生労働関係では施設整備費などを中心とした改革案となっている。それでも8,000億円以上の削減を見込んでいるという点で、すぐにでも実現できる"対案"になっているというのが地方側の言い分なのだ。
  では、なぜ政府側が生活保護費の削減にそこまでこだわるのか。(一方で、与党内からは「生活保護費の総額を抑制する制度見直しが必要」という声まで飛び出している)その背景には、急激な少子高齢化という日本の置かれた状況がある。現在、日本の生活保護受給者は、人口1,000人に対して11.4人となっているが、その大半が高齢者だ。目立つのは、年金未納のまま受給資格を失い、高齢のために働くこともままならず、生活保護受給者となっているケースである。
  現役世代において年金未納者が急増していることは周知の事実である。このまま、少子高齢化という条件が加われば、近い将来、生活保護費の支給額が爆発的に増えることは明らかであろう。はからずも、今回の国と地方の対立は、日本が将来的に抱えざるを得ない社会不安の到来を示したとも言えるのだ。
  ちなみに、政府与党側は、生活保護費のうち住宅補助分についてのみ補助金を削減するという方向で調整に入りつつある。こうした動きを受けて、18日にも地方側は関係者協議会の開催を予定している。果たして国と地方の深い溝は埋まるのか、注目したい。
なお、地方6団体は18日の関係者協議会を経て、「生活保護費の国庫負担削減そのものに反対」という意思を確認。厚生労働省に対し、新規の生活保護受給者を対象とした事務を国に返上する旨を申し入れた。国対地方の対立は、泥沼化の様相を呈しつつある。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.11.21
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