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新介護保険制度は無事離陸できるのか
〜施設給付見直し、介護予防をめぐる混乱〜
  来年度から本格的に施行される改正介護保険制度であるが、各種現場レベルにおいて、新制度への対応がスムーズに進んでいるのかといえば、正直言って“混乱”としか表現できない状況が蔓延している。現在、介護保険に対するマスコミ報道は医療制度改革の陰に隠れている感があるが、実際にどのようなことが起こっているのかを整理してみたい。
●  自己負担額が高齢者の利用内容を圧迫
  まず、先駆けてスタートした「介護保険施設における居住費・食費の全額自己負担」であるが、医療経済研究機構が10月3日付で調査した概要が、厚生労働省から発表された。調査内容は、介護保険3施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)について、どれくらいの施設が居住費・食費の平均額が基準費用額※1を超えた、あるいは下回った価格を提示しているかを調べたものである。
  ポイントとなるのは、第4段階利用者※2についてである。この層は、低所得者に対する負担限度額が生じないため、施設側と入所者側の契約に基づいて居住費・食費が設定される。一番入所者が多く費用も割安な多床室に絞って見てみると、基準費用額を超える施設は、特別養護老人ホームで9.7%だが、介護療養型医療施設で16.7%(病院)、24.1%(診療所)、介護老人保健施設に至っては28.7%と約3割に上っている。
  本調査は、全国3,000の施設を対象にしているが、回収率28.1%、有効回答率16.9%という厳しい数字を示している。そのため、基準費用額を上回る施設が表に出た数字以上に潜在しており、それゆえに回収率が悪いのではないかという推測がどうしても先に立つ。
  実際、11月に入ってから視察したいくつかの施設において、空きベッドが目立つという状況を目の当たりにした。ある施設の生活相談員からは、「自己負担分が支払えないゆえに、本人の住所地を施設にうつして独居世帯とし、低所得者(特定入所者)資格を得るという裏ワザも行われている」という話まで飛び出している(こうしたケースは、一部マスコミなどでも報告されている)。当然、施設によっては大幅な減収とともに、食材および人件コストの削減に乗り出す所も増えてくるだろう。
●  多くの自治体で見切り発車する地域包括支援センター
  もう一つの“混乱”要因は、来年度からスタートする介護予防サービス、およびそのマネジメントを取り仕切る地域包括支援センターである。当初、多くの自治体が地域包括支援センターの整備に間に合わず、4割近くが介護予防サービスのスタートを次年度以降に遅らせるという報道もなされた。現在は8割近くの自治体が初年度スタートの意思を示しているというが、それでも波乱含みである。
  まず、介護予防マネジメントの報酬が未だ確定しないため、実際にケアマネジメントのほとんどを担うことになる居宅介護支援事業所が、どれくらい手を上げるかが不明なこと。それゆえに、地域包括支援センターの業務量に目途が立たず、見切り発車的な自治体が目立つ。おまけに、厚生労働省が示した介護予防アセスメントツール案が現場のケアマネジャーの猛反発を受け、これも最終決定が遅れに遅れており、大きな不安要因になっている。
●  厚生労働省と地方自治体の対立が招く影
  加えて、(決着したとはいえ)三位一体改革の生活保護費の取り扱いをめぐり、厚生労働省と地方自治体の間に決定的な亀裂が生まれてしまったことも、ゆくゆくは介護予防事業のスタートに大きな影を落とすことになりかねない。
  果たして新しい介護保険制度は、無事に離陸することができるのか。日を追うごとに耳に入る不安要因が増えていく中で、年明けにも介護報酬をはじめとする具体的な制度の中身が決定する。
※1 :国が示した施設の居住費・食費の基準額。施設側が決定した金額が、低所得者の負担限度額を超えた場合、オーバーした分について、基準費用額を上限として介護保険からの補足給付がなされることになる。
※2 :年金などの収入が年額266万円を超える者(市町村民税課税世帯)。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.12.05
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