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医療制度の崩壊を防げるか!?
〜「医療制度改革大綱」〜
●  医療制度改革の背景
  政府・与党医療改革協議会は12月1日、医療制度改革大綱をとりまとめた。「大綱」には、70歳以上の高齢患者の窓口負担額の見直しや75歳以上を対象とした新たな高齢者医療制度の創設などが盛り込まれている。
  この改革の背景には、急速な少子高齢化、経済の低成長、国民のライフスタイルの変化など現在直面している大きな環境変化において、将来にわたって国民皆保険を堅持し、医療制度を持続していくには、医療制度の構造改革が急務となったことが挙げられる。政府は来年の通常国会に関連法案を提出する予定であり、今後の行方が気になるところである。
●  高齢者医療制度は前期・後期の二本立て
  改革の具体的な内容として、小児科、産科などの特定の診療科における医師不足の対応や在宅医療・介護の連携強化など子どもや老人を持つ家族にとっては嬉しい事項があるものの、全体としては国民にとって厳しいものが多くなっている。
  例えば、医療費の支払いが一定額以上を超えた場合に還付される「高額療養費」の自己負担限度額の引き上げがあるが、高齢者の負担が増加していくことは明らかである。
  また、新たな高齢者医療制度においては、65〜74歳の前期高齢者医療制度と75歳以上の後期高齢者医療制度の二本立てとなり、これに合わせて窓口負担額も変更となる。70歳未満までは現行どおり3割負担であるが、70歳〜74歳では現行の1割負担(現役並みの所得を有するものは2割負担)から2割負担(現役並みの所得を有するものは3割負担)となり、75歳以上では1割負担(現役並みの所得を有するものは3割負担)となる予定である。
●  新設制度における保険財政の運営責任は?
  新設される75歳以上の後期高齢者医療制度は、運営者を「県単位で全市町村が入る広域連合」としており、保険財政の運営にだれが責任を持つのかはあいまいである。
  国と地方は負担を押しつけ合うのではなく、双方で協力し役割を分担して医療改革を進めていかなければならない。医療改革が進まなければ、最終的に困ってしまうのは国民および患者である。医療改革を早急に進めていく上で各自治体は専門知識をもつ人材の育成が大きな課題となっており、厚生労働省は全面的な支援を積極的に行っていかなければならないだろう。
●  国民生活への影響を配慮した改革となるか
  今回の医療制度改革大綱では、出産育児一時金の給付額の引上げ(現行の30万円から35万円へ)など評価できる内容はあるものの、全体的には医療給付費の抑制を図るものが多く、国民にとっては楽観できない問題である。特に、高齢者にとっては、病気やけがをしても気軽に医者に行くことができない状況になる可能性が高く、これから老後を迎える世代にとっても不安が尽きない。
  政府が「大綱」に基づき、関係する改正法案を作成し、来年の通常国会へ提出する際には、ぜひとも、医療費削減による医療制度改革が国民の生活を必要以上に圧迫しないようなバランスの取れた内容となっていることを期待したい。
出所:政府・与党医療改革協議会「医療制度改革大綱」
(庄司 英尚、庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2005.12.12
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