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介護報酬案の策定が大詰めに
〜介護給付分科会が審議報告案提示〜
●  介護報酬引き下げはトーンダウン気味
  介護保険の改正にともない、新たな介護報酬案を決める作業も大詰めに入ってきた。実質、介護報酬案を策定することになる厚生労働省の介護給付分科会も37回を数え、これまでの審議報告とともに、介護報酬の算定構造イメージが提出されるに至っている。
  まず審議報告においては、「保険料の負担をできる限り抑制する方向で、(介護報酬を)適正な水準とすることが必要である。さらに、将来的には介護予防の推進等により、できる限り保険料水準の増大を抑えていくことが臨まれる」という一文が目につく。
  これだけを取り上げるなら、介護報酬の引き下げが既定路線であるという読み方ができる。だが、改正介護保険法の審議段階から繰り返されてきた「介護報酬引き下げの可能性」を巡る議論の流れに比べてみると、私的には「引き下げについてややトーンダウンしている」というイメージの方が強い。
  なぜそう思うのかというと、同時に提出された「介護報酬の算定構造のイメージ」(報酬の算定項目について、数字部分を入れずに示したもの)において、特に在宅サービス部門での加算項目が目立つからだ。
  特にポイントとなるのが、「要介護度の悪化防止に向けたサービスの適正化」にかかる加算である。例えば、通所介護において「管理栄養士を配置して、栄養改善のための取り組みをしている場合」とか「歯科衛生士を配置して、口腔機能の向上のための取り組みをしている場合」の加算が見受けられる。社会福祉法人や民間の営利企業が参入できる「通所介護」において、医療法人系サービス並みの人的配置を推し進めるという加算項目は、要介護度の悪化防止という効果を明確に引き出そうという意志の現われといえよう。
●  政府vs厚労省、先行きは未だ不透明のまま
  一方、訪問リハビリや通所リハビリにおいては、「短期集中リハビリテーション加算」が新たに誕生する。これは、退院や要介護度が上がったときから一定期間内におけるリハビリについて、加算をするというもの。すでに医療の世界では、急性期リハビリなど、「疾患やケガを負ってからできるだけ短期間にリハビリを開始することが、その後の自立をうながすうえで大きなポイント」という考え方が主流である。この理念を介護保険においても推し進めようという意図が感じられる。
  これら一連の算定構造イメージを見ると、厚生労働省側は"大きな賭け"に出ているのではという印象が強い。つまり、一時的には介護報酬ひいては保険料が増大することがあろうとも、「要介護度の悪化防止、あるいは介護予防」の強化によって、次回改定時に財政改善を達成するという流れだ。これを見ると、数年前に流行った「将来に向けた改革のため、当初の痛みに耐える」という、小泉改革のキャッチフレーズが思い出される。
  つまり、シナリオはこうだ。すでに政府は介護報酬の大幅な引き下げを示唆している。これを何としても押し戻したい厚生労働省側は、「痛みに耐えてがんばる。その結果として介護報酬の引き下げは可能」というメッセージを発したというものだ。
  もし仮に、イメージ案をそのまま導入して、なおかつ介護報酬の総額を引き下げるとなれば、例えばいくつかのサービスについて包括払いなどの大ナタを振るわざるを得なくなる。もし、小泉政権が「それでもいい」と押し通すようなことがあれば、1月の報酬案提示は大荒れとなってくるだろう。ヤマ場はもう少し先にやってきそうな気配である。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.12.19
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