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平成18年度予算案に見る社会保障費
〜超緊縮財政の中の“伸び”が示すもの〜
●  年金需給資格を喪失した高齢者層の増加
  平成18年度政府予算案が決定した。先の衆院選挙大勝の勢いそのままに、復活折衝による大荒れもなく、「新規国債30兆円以内」「小さく効率的な政府」という官邸の意向が最大限反映された予算案になったといえよう。
  そんな中、前年度比において、社会保障関係費が0.9%、生活保護費が6.4%という伸びを見せた。生活保護費に関しては、三位一体改革において国側が地方に対して大幅譲歩したことが背景にあるが、これは言い換えれば年金需給資格を喪失した高齢者層の増加を意味する。一方、社会保障関係費の増加の背景には、医療費の国庫負担金の1.0%増が大きな要因として挙げられる。これも、人口の高齢化が背景にあることは明白だろう。
●  院内完結型から地域復帰型の医療へ
  だが、高齢化による社会保障費の自然増だけに目を向けると、見落としてしまうポイントがいくつかある。
  医療費に関していえば、先の医療制度改革において、診療報酬がおおむね3.2%減になることが確定している。医療界全体に激震が走るほどの減額にもかかわらず、医療関係予算全体で700億円近い増額になるということは、もちろん高齢化による医療費の増加が大きな要因であることは間違いない。
  しかしその増額分には、医療連携体制推進事業(6.5億円)や専門薬剤師研修事業(1.1億円)といった予算枠の創設、さらには歯科医師臨床研修の推進の増額(29.3億円)といった内容が散りばめられている。これらの項目は何を意味するかというと、チーム医療体制の確立という大きなテーマである。さらに一歩進めると、院内完結型の医療から地域復帰型の医療への移行が読み取れる。つまり、地域において病院並みの高度な医療を提供するためには、医師以外のあらゆる職種が同等の知識と情報を持つことが必要であり、そのために「専門薬剤師(医師並みの専門知識を持った薬剤師のこと)」や「歯科医師の臨床研修の拡充」が必要になるということだ。
●  介護保険財政の防衛策は介護予防の推進
  介護分野では、今年1月にも決定する介護報酬に対して、0.5%減の改定を見込んでいる。これに平成17年10月の施設サービスにおける居住費・食費の自己負担移行分を含めると、報酬はトータルで2.4%減となる。
  その一方で、「地域支援事業」にかかる交付金494億円分を新たに支出することとなった。従来、地方への補助金事業であった高齢者福祉サービスを介護保険制度の枠内に取り込み、「介護予防」を軸に再編成したものが「地域支援事業」である。行政側がかなり強い意思をもって、住民の介護予防を推し進めることにより、中長期的に介護保険財政の悪化を防ぐことが目的とされている。
  医療・介護ともにいえることは、「少しでも長く、自宅で、あるいは地域で暮らしてもらう」ことにより、医療費や介護費の高騰を水際で食い止めようとするビジョンだ。
  確かに、「住み慣れた地域でいつまでも元気に」という高齢社会のあり方は重要である。だが、それが国の予算という形で迫ってくると、その先に「いざという時のセーフティネットはどうなるのか」という不安がどうしても付きまとう。この不安感が国民の頭の片隅に巣食っている限り、国の思惑通りに「地域医療」や「介護予防」が進むことはなかなか難しいのではないだろうか。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.01.05
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