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長崎県でグループホーム火災、7人死亡
〜高齢者ケア行政のひずみが生んだ惨劇〜
●  認知症ケアの象徴地域で発生した事故
  認知症高齢者のケアにおいて重要な役割を果たすはずのグループホームで、またもや悲惨な事故が起こってしまった。長崎県大村市のグループホームにおいて、新年早々の8日深夜に火災が発生、9人の入所者のうち7人が焼死するという惨劇となった。
  長崎県といえば、認知症対応型グループホームの整備率が全国一を誇る。いわば認知症ケアの象徴ともいうべき地域で発生したこの事故は、はからずも日本の高齢者介護行政の貧困さを示すこととなってしまった。
  火災の原因は入所者のタバコの火の不始末とされ、消防の出動体制の遅れが被害拡大の一因になったという報道もある。だが、それ以上に問題なのは、9人の入所者に対し、火災発生時の夜勤者が1人だったという点だ。
  ちなみに、グループホームの人員基準では、2ユニット18人までの入所者に対し、夜勤職員は1人配置すればよいことになっている。つまり、火災に遭ったこのグループホームは、法令を遵守していたわけだ。
  だが、いざ火災が発生した段階で、身体能力が衰え、しかも認知症がある入所者をたった1人で安全に避難させるのは不可能に近い。一方で、認知症高齢者の特徴としては夜間に不穏な状況になるケースが多く、タバコの火だけに限らず不始末のリスクは低くない。
  加えて、特別養護老人ホームのような大規模施設とは異なり、小規模であるがゆえに消防法による「スプリンクラーの設置」が義務付けられていないことも大きな問題がある。今回の火災を受けて、消防庁は早速「小規模施設にもスプリンクラーの設置を義務付ける」ことについて検討を始めた。
●  介護現場に沿った根本的改革を待望
  しかし、夜勤者の確保、あるいはスプリンクラーの設置は、ともに相当規模の資金を必要とする。全国の大多数のグループホームが経営に窮している中、ホーム自体にこれ以上の負担を強いることは、利用者負担の急騰、および人件費の減額によって人材確保が困難になるなどの事態に結びつきかねない。
  1人夜勤者の問題として頭に浮かぶのが、昨年石川県で発生したグループホーム夜勤者による入所者への殺人事件である。この事件は、被告に対して殺人罪が適用され、一審で懲役12年が下された(現在、控訴中)。
  確かに殺人を犯すことに同情の余地はないものの、全国の介護現場では、「同様の事件はどこでも発生する」という懸念が今なお渦巻いている。それだけ認知症高齢者の夜間ケアは、プロの職員でさえ多大な身体的・精神的ストレスを与えるものである。
  今回の介護保険改正で、グループホームなどの地域密着型施設に対する施設整備用の交付金が手厚くなったり、市町村権限を強化することで、質の低いグループホームが増えないようにする「総量規制」も可能になった。
  だが、どれも利用者ニーズに沿った根本的な改革とは言いがたい。ポイントは、1月26日に提示される介護報酬であるが、すでに全体改定率は0.5%減という数字が示されている。今回の痛ましい事故が、議論に一石を投じることになるのか。動向を見守りたい。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.01.16
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