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従業員の不正経理行為は会社の行為と同一視
●  従業員が横領の発覚防止のために行った不正
  仮装・隠ぺいなどして不正に所得をごまかせば重加算税を課される。しかし、会社の気づかないところで、従業員が、自分の横領が発覚することをおそれて行った不正経理についても、会社の行為とみなされ、会社に対し重加算税が課されることになってしまうのか。
  歯科材料の卸売業A社は、4事業年度分の法人税・消費税に課せられた重加算税について、従業員が行った不正経理に基づくもので、A社の隠ぺいや仮装行為に該当しないとして重加算税処分の取消しを国税不服審判所に求めた。
  A社は、不正経理について、(1)従業員が自己の窃盗または横領行為の発覚を防止するために行った不正行為であること、(2)A社が通常の調査をしても発見できない方法で売上や期末棚卸金額の圧縮が行われており、また、記帳や現金管理を任せ切りにした事実もない、(3)A社の取締役が従業員に対し棚卸圧縮行為を指示した事実はないことから、A社に結果責任を課すべきでなく、課税主体であるA社の隠ぺい・仮装行為に該当しないと主張した。
●  納税者の意思等に関係なく客観的に不正行為があれば重加算税
  しかし、国税不服審判所は、「重加算税を課すためには、納税者において、過少申告を行うとの認識があることまで必要とするものではないから、隠ぺい・仮装の行為は、納税義務者である法人の代表者に限定されるものではなく、従業員を自己の手足として経済活動をしている納税者においては、隠ぺい・仮装行為が代表者の知らない間に従業員によって行われている場合であっても、その従業員の行為を納税者の行為と同一視できる場合には、法人自身がその行為を行ったものとして重加算税を賦課できる」との解釈を示した。
  重加算税を課すこととなる「偽りその他不正行為」とは、税額を免れる意図のもとに、税金の賦課徴収を不能・困難にするような何らかの人をあざむく計略などの不正行為を行っていることをいい、その不正行為を行っていたのが納税者であるか否かにかかわらず、客観的に偽りその他不正行為によって税額を免れた事実がある場合には、重加算税を課すことになるということだ。
●  従業員の管理・監督は会社の責任
  そのうえで、A社のケースは、(1)従業員はA社の経理事務を担う重要な地位にいたこと、(2)不正経理行為はA社の課税申告に直接反映していること、(3)不正経理行為は長期に及び、現金出納帳などの確認をすれば容易に把握できたと認められるところ、(4)A社はそれらの確認を行っていないことを総合勘案すれば、この不正行為はA社の行為と同一視すべきだと認められるとの判断を示した。
  従業員の不正経理が通常の調査では発見できない方法で行われており、自己の横領の発覚を防止するために行ったものというA社の主張に対し、この不正経理は容易に発見でき、A社が従業員の経理処理について十分に注意を払い管理・監督を行っていたとは認められないから、A社の主張には理由がないと斥けた。
  結局のところ、会社は従業員を十分に管理・監督する必要があり、従業員が行った不正に対しては責任をとらざるを得ないということになろうか。
(浅野 宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2006.02.20
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