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介護報酬の見直し案発表 その2
〜軽度利用者の受け皿が不足する危険〜
●  介護報酬改定の狙い
  今回の介護報酬改定の狙いをひと言で言えば、「軽度者への介護予防を進める」ことと「中重度者への対応強化を図る」という、ある意味で両極にある施策を平行して進める点にある。だが、舵取りは決して容易ではない。
  まず環境的な要因がある。現在、国会審議が進んでいる医療制度改革がそのまま実現すれば、主に高齢者の入院期間の短縮が進むことは間違いない。一方、介護保険による療養型病床群を2012年に向けて廃止することもほぼ決定的で、病院・施設から在宅へという流れは一段と加速するだろう。
  つまり、介護業界全体が予測する以上に、市場へ向けて「中重度の要介護者」が一気に流れ込んでくる可能性があるわけだ。いくつかの介護事業者に話を聞いてみると、どうも「要介護者の高齢化による中重度者の自然像」的な感覚で事業予測を立てている傾向がある。これは危険な兆候と言えよう。
  そこで今回改定された介護報酬を眺めてみる。まず、介護予防において中核的な役割を果たす待が高い通所介護(デイサービス)であるが、既存の介護サービスにおいては(送迎加算がなくなってはいるものの)おおむね増額となっている。特に地域に密着した展開が期待される小規模型通所介護においては、要介護2と要介護5の利用者に限ると30%近い増収を得る可能性がある。
  一方、要支援1・2を対象とした介護予防サービスにおいては、オプションサービスにあたる加算が最大限見積もったとしても、旧・介護報酬における要支援者対象の金額からはわずか2%程度の伸びしか期待できない。
  仮に、介護市場に中重度者が一気に流れ込んでくる展開になれば、事業者としては「あえて介護予防事業を行うことはない」という戦略に走る可能性が高くなる。
  加えて今回の介護報酬では、末期がん患者などの医療ニーズが高い人に対して集中的に対応するための「療養通所介護」が創設された。こちらは人員・運営規準が厳しい※1とはいえ、50%近い増収も期待できる。介護予防に割く設備や人員を考えれば、療養通所への算入を優先的に検討する事業者が出てきても不思議ではないだろう。
  結果、軽度の要介護者は通所利用から溢れる可能性が高くなり、居宅の訪問介護や地域密着型サービスを受け皿としていく流れが強まることになる。ところが、ここでもいくつかの問題点が指摘されている。
●  地域密着型サービスに危険信号
  まず、訪問介護における介護予防サービスであるが、これは利用頻度に応じて介護報酬が3ランク※2に分かれており、それぞれ月単位の定額払いとなる(ちなみに、要介護者対象のサービスでも生活援助で提供時間の上限が設定されたため、実質的に定額払いになると言っていい)。適正なサービス提供が行われているかどうかの監視は強まることになるだろうが、それでも事業者の中には「できる限り人件費コストを抑えたい」という思惑から"効率化"を図ろうとするだろう。
  一方、地域密着型サービスにおいては、市町村による「指定規制」という問題が持ち上がっている。地域密着型サービスに限っては事業者指定の権限が市町村にある。事業者が大量に増えて介護保険料が急上昇することを嫌がる自治体の中には、例えば「この地域に事業所は1つだけ」という指定の抑制に動き出しているというのだ。もし、この動きが蔓延すれば、軽度者の受け皿はますます細っていくことになりかねない。
  前回、介護予防プランの作成が滞るという旨を懸念したが、実際のサービス現場でも介護予防が進まないという危険が高まりつつある。これは大きな問題となりそうだ。
※1 利用者と看護・介護職の比率を1.5:1以上にしたり、常勤専従の看護師を1名以上配置することが定められている。さらに利用定員は5名以下となっている。
※2 週1回程度の利用 要支援1・2とも月額12,340円
週2回程度の利用 要支援1・2とも月額24,680円
それ以上の利用  要支援1・2とも月額40,100円
(標準地域における価格。ちなみに、利用者負担はこのうちの1割)
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.02.27
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