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荒川選手の金メダルに対する報奨金は非課税
●  金メダルの報奨金は300万円
  前半はメダルが取れずに重苦しい空気が立ち込めたトリノ冬季五輪も、荒川静香選手がフィギュアスケートで金メダルを獲得したことで日本選手団の不振も吹っ飛んでしまった。殊勲の荒川選手には、日本オリンピック委員会(JOC)から報奨金300万円が贈られるが、この報奨金の税務上の取り扱いは、所得税法の特例で非課税とされる。ただし、JOC以外の日本スケート連盟や所属会社などからの報奨金は課税される。
  JOCの報奨金支給は、各国の制度に追随して1992年のアルベール冬季五輪からはじまった。当時決められた金300万円、銀200万円、銅100万円という報奨金の額は14年後の今も変わっていない。ただ、当初はいくつメダルをとっても報奨金は1個分だけだったが、長野五輪からは獲得したすべてのメダルに対して贈られることになり、金1、銅1の清水宏保選手は400万円を手にしている。
●  非課税の契機は水泳の岩崎恭子選手の金メダル
  ところで、JOCからの報奨金が初めから非課税だったわけではない。1992年のバルセロナオリンピックにおいて、女子水泳200メートル平泳ぎで当時14歳の岩崎恭子選手が見事に金メダルを獲得したが、その報奨金300万円は一時所得として課税された。
  その税額は、岩崎選手は当時中学生のためほかに収入がなかったものとして計算すると、「{300万円(報奨金)−50万円(一時所得の特別控除額)}÷2−35万円(基礎控除)」×10%(税率)=9万円となる。少額だが、扶養控除からも外れることになり、中学生にも課税するのかと問題となった。
  そこで、租税特別措置法において所得税法の特例を設け、「オリンピック競技大会において特に優秀な成績を収めた者を表彰するものとして財団法人日本オリンピック委員会から交付される金品で財務大臣が指定するものについては、所得税を課さない」(租税特別措置法第41条の8)とされ、1994年から非課税となった。
  ただし、非課税となるのはJOCからの報奨金のみで、各競技連盟や協会からの報奨金は一時所得として課税される。また、社員として所属する企業からの報奨金は給与所得の対象となる。支給した企業側は損金算入できるが、報奨金を贈られた社員が役員であれば、「規則的に継続して支給される定期の給与」以外の給与として役員賞与となる可能性が高く、会社側も損金算入できないことになる。
●  低額だったトリノ五輪の報奨金予算
  蛇足ながら、トリノ五輪を前にJOC総務委員会総会が承認した2005年度予算案でのメダリストへの報奨金は約2,000万円だったそうだ。これは、長野五輪があった1997年度予算の半分、ソルトレークシティ五輪のあった2001年度予算と比べても1,000万円少ないとのこと。
  長野五輪では約3,000万円の報奨金が支払われたが、銀1、銅1だったソルトレークシティ五輪では300万円と大幅にダウンしていた。トリノ五輪は、荒川選手の金1に対して300万円の報奨金の支払いということになったわけだが、JOCの役員は、今回のトリノ五輪の日本選手団の不振をかなり冷静に予感していた数字といえなくもない。それでも、支払い枠はもっとあったのに…。
(浅野 宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2006.03.06
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