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中退共の現状と今後の行方
●  欠損金は減少傾向
  中小企業向けの退職金制度である中小企業退職金共済制度(以下、中退共)に新しい動きが出てきた。
  2005年12月末現在の加入状況は、加入企業数38万6,158社、加入者数276万3,302人となっている。1年前の2004年12月末では390,144社、266万0,109人であり、企業数は微減であるが、加入者数は逆に増加している。1企業あたりの平均加入者数は6.8人から7.1人になっており、規模の大きい企業が入ってきていることが分かる。
  加入企業数は、2000年度の42万1,708社をピークに4年連続減少している。一方、加入者数は、1996年度の280万6,352人から減少傾向が続いていたが、ここ3年間増加に転じている。
  近年、運用環境の低迷によって中退共の資産運用も厳しさを増していた。中退共は予定利回りを保証していることから、予定利回りと実際の運用利回りの間に逆ザヤが発生していた。2003年度末において中退共の年金資産は2兆9,886億円であったが、その一方で、将来の退職金支払いのための責任準備金が3兆1,706億円に及ぶことなどによって、繰越欠損金は2,673億円と、年金資産の1割近いほど膨らんでいた。こうした状況を踏まえて2002年11月には予定利回りが見直され、それまでの年3%が1%に引き下げられた。
  また、実際の運用利回りが予定利回りを超えた場合に支払われる付加退職金についても、2004年度は予定利回りを超える剰余金はすべて付加退職金とするのではなく、剰余金の半分は繰越欠損の穴埋めに回された。その結果、資産運用環境の改善もあり、2004年度末では繰越欠損金は2,271億円に減少している。ただし運用資産の8割が国内債券で運用されているため、株式市場の上昇の恩恵はあまり得ていない。
●  適年移換による加入者は増加
  こうした中で加入者数が増加に転じたのは、2002年4月から適格退職年金からの資産の移換ができるようになったためである。これは2012年3月で適格退職年金が廃止されることに対する措置である。
  適格退職年金から資産が移換されて発足した中退共は、2002年度から2005年12月までに8,191社、加入者数では23万3,246人に及ぶ。特に2005年度は4月から12月までの9カ月間であるが、3,173社、9万8,350人とこれまでの3年間の合計に近い引継ぎ数となっている。
  引継数が急増したのは、適格退職年金からの資産移換を加速するため、2005年4月からは資産移換の制限が撤廃されたためである。これまでは、過去10年分の勤務に対応する年金資産だけが移換でき、それを超える金額は移換時点で従業員に分配されてきたが、2005年4月からは適格年金資産全額が移換できるようになったため、資産移換が急増している。
  適格退職年金から中退共への引継ぎ企業は、1企業あたりの加入者が28.3人となっており、既存の中退共の7.1人を大きく上回る。これが加入企業数が減りながらも近年加入者数が増加している大きな理由と考えられる。
  また、資産を移換する企業は予定利回り1%で算定された健全な資産である。そのため今後も資産の移換が続けば、年金資産と責任準備金の逆ザヤは縮まり、繰越欠損金も一段と縮小することが期待される。繰越欠損金が縮小すれば、中退共への信頼も回復し、加入企業の伸びも期待できる。低迷している中退共もよい方向に向かい始めるかもしれない。
出所:中小企業退職金共済事業本部ホームページ
(可児 俊信、(株)ベネフィット・ワン コンサルティング室、千葉商科大学会計大学院教授、
CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2006.03.13
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