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介護報酬の見直し案発表 その3
〜「特定施設」が軽度者の受け皿になる?〜
●  「特定施設」とは?
  今回の介護保険制度改正、および介護報酬改定によって、要支援1・2を中心とする軽度の利用者に「サービスが行き渡らなくなる恐れがある」ことはすでに述べた。では、軽度者の受け皿をどこに期待すればいいのかという点について、もう少し掘り下げたい。
  実は、利用者にとって意外に大きなポイントとなるのが、介護保険における「特定施設」の扱いである。「特定施設」とは、介護付きの有料老人ホームやケアハウスといった自宅以外の居住スペースで、特別養護老人ホームなどの介護保険施設以外のものを指す。
  これまでも、この特定施設に入居している人に対しては特定施設入居者生活介護という名称により、内部でさまざまな介護サービスを提供してきた。だが、その報酬は1日あたりの定額制で、しかも介護保険施設の報酬に比べてかなり低い。結果、サービスの質に疑問符がついたり、コスト的に採算が合わないからと算入を躊躇する事業者も少なくなかった(内部サービスに飽き足らないときは、外部のサービスを利用することもできるが、その場合は外部サービスとの併用はできない)。
●  特定施設の増加と外部サービス利用の給付枠
  3年ほど前、厚生労働省は、戦後ベビーブーム世代(団塊世代)が65歳以上を迎える「2015年」を焦点として、「要介護状態になる前の早めの住み替え」を提唱していた。要介護状態になる前からの住み替えということになれば、大きな受け皿となるのは有料老人ホームやケアハウスなどである。だが、この受け皿のパイが小さく、介護の質もいまひとつということになれば、行政の掲げる構想自体が崩壊しかねない。
  そこで、今回の介護保険改正・介護報酬改定では、特定施設を対象に「大きな仕掛け」を取り入れている。一つは、特定施設を対象に高齢者優良賃貸住宅や養護老人ホームなどを新たに増やしたこと。もう一つは、外部サービス利用型特定施設入居者生活介護という給付枠を設けたことだ。
  前者については、利用者の選択肢を広げることによって、「早めの住み替え」を促進する意図があることはいうまでもない。
  一方、後者であるが、これは内部で行うことについて「生活相談や介護サービス計画の策定、安否確認の実施」などに特化し、実際のサービス提供については、特定施設側が外部のサービス事業者と契約を結ぶことによって提供を行うというものである。特定施設側にとっては、人材・設備面の初期投資を抑えることができるため、算入しやすくなるというメリットがある。
  特定施設事業者側にとっては、特に要支援者への介護予防サービスが「コストは相応にかかるが報酬は低い」という点で算入を躊躇する大きな要因になりかねない。その点、外部事業者に任せられるとなれば、採算計画が立てやすいということになるだろう。利用者側にとっても、要介護度が低い場合の受け皿という期待は高まることになる。
  ただし、地域において、外部に委託できる事業者がどれだけあるのか。あったとしても、かなり安い費用で請け負う可能性があるため、前向きに引き受けないのではないかという懸念は残る。「外部サービスが利用できます」というキャッチフレーズで入居したはいいが、実際はサービス提供が滞ったり、サービスの質が極端に悪化する危険もないとは限らない。
  サービスの質を確保するために、国や自治体がどこまで担保となる仕組みを整えられるか。そのあたりがポイントとなるだろう。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.03.13
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