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介護相談員養成研修事業がスタート
〜制度改正を担う、もう一つのマンパワー〜
●  都道府県による相談員養成研修
  新たな介護保険制度がスタートして、ほぼ1カ月が経過しようとしている。現場の詳細はまだ把握できないが、漏れ聞くところでは定額制の予防通所介護などで「サービスの利用回数が制限されて戸惑っている」という利用者の声がちらほらと上がっているらしい。利用者側の不満が少しずつたまり始めると、施設や事業者に向かう苦情なども少しずつ激しさを増してくる可能性がある。
  そんな中、厚生労働省は平成18年度予算案において「介護相談員養成研修事業」を盛り込んだ。同省では、介護サービスの質の向上を図るために「介護サービス適正実施指導事業」を行っているが、そのメニューの中に新たに盛り込まれることになる。
  そもそも介護相談員とは、地域の老人クラブなどで積極的に活動している人、あるいは民生委員などを対象として、市町村が候補者を選定する。そして、選ばれた介護相談員は地域の介護サービス事業者や施設におもむき、そこでサービスを利用する人の相談に乗ったり、サービスへの苦情・不満などをヒアリングして事業所・施設への業務改善の提案などにつなげるという役割を担っている。
  だが、従来は市町村の独自事業であったため、地域によって実施の有無などに差が生じていた。これを全国規模で統一するために、都道府県に相談員の養成研修を手がけさせることによって、市町村への事業支援を強化することを狙ったものである。
●  地域住民への情報発信役を担う介護相談員
  具体的には、前期・後期に分けてトータル29時間の講義を実施、さらに前期・後期の間には介護保険施設などへの訪問実習をはさみ、その活動内容を後期の講義において発表させるという仕組みをとっている。講義内容は、介護の基礎知識に始まり、認知症高齢者の理解、虐待の発見方法、高齢者やその家族に対するコミュニケーション技法など、かなり専門性の高い内容が修得できる。
  加えて、現在すでに介護相談員の任についている人を対象とした現任者研修や、市町村の事務局担当者を対象とした研修などのプログラムも想定されている。これだけ体系づけられている状況を見ても、厚生労働省の熱の入れようが分かるというものだ。
  実は、厚労省が掲げる介護相談員の役割の中に、「地域包括支援センターを中心とする地域包括ケアにかかわる一員となる」という旨が示されている。新たに誕生した地域包括支援センターが、どこまで地域に密着した活動ができるかは未だに不透明な部分が大きい。だが、これが機能しなくては、厚労省の描く地域包括ケアは絵に描いた餅に終わってしまう。そんな中で、センター機能の円滑化を図るために「介護相談員」という利用者に密着した存在に目をつけた可能性が大きいのだ。
  センター運営が成功するか否かは、「地域住民に対していったい何をしてくれるのか」という情報発信が大きなカギとなる。現段階でセンタースタッフが介護予防事業に忙殺される中、この情報発信役を介護相談員が担うとすれば、センター事業の実質的な命運を握ると言ってもいいだろう。果たして研修参加者がどれだけ確保できるのか、そのスタートに注目をしてみたい。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.04.24
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