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ライブドア株の上場廃止は個人投資家への警鐘?!
  4月14日、東京証券取引所は上場からわずか6年という短期間でライブドア株を上場廃止とした。廃止理由は有価証券報告書虚偽記載である。ライブドアは一部の幹部により投資家を欺いた結果、証券取引市場からの撤退という非常に大きな代償を支払うこととなった。同時にライブドアへ投資を行っている個人投資家も、株価下落はいうまでもなく、上場廃止によって非常に大きな影響を被ることになる。そこで今回はこのライブドア株の上場廃止とそれに伴う個人投資家への影響について考える。
●  上場廃止によって流動性、ひいては投資対象としての魅力が大幅に低下
  企業にとって、自社の株式を証券取引市場に上場するメリットの1つは、自社株の流動性が飛躍的に高まることである。証券取引所に上場された株式は、手軽に売買できるようになる。つまり株式上場とは、上場する会社の株式に対して、証券取引所が「この会社の株式は個人投資家が取引しても大丈夫ですよ」というお墨付きを与えるようなものなのである。
  上場株式の流動性の高さは、個人投資家にとっては非常に重要な点といえる。例えば、非上場の株式(除く店頭公開株式)の場合、将来の老後の生活資金準備としてかなり長期間運用可能な資金であったとしても、「買いたいときに買えない。売りたい時に売れない」という流動性の低さがネックとなり、個人投資家が投資するにはなかなか勇気がいることになるからである。また、上場する際には、証券取引所の厳しい制限(決算の情報の開示等)が行われるが、非上場の株式にはそれらの制限も当然行われないため、情報不足という観点からも個人投資家が投資することは、難しいといえる。
  以上の点からも、上場廃止に伴って、個人投資家にとってのライブドアは、投資対象としての魅力が激減することとなる。
ここでいう大丈夫という表現は、必ず値上がりするという意味ではなく、証券取引所が定めた一定のルールをクリアーした健全な会社という意味で使用している。
●  課税面は増税に
  現在、「貯蓄から投資へ」という流れを加速し一般の人々の積極的な証券市場へ参加を促進するため、上場等株式(含む店頭公開株式)へはさまざまな減税策がとられている。具体的には以下の表の通りである。
  減税策 期 限
配当金 20%⇒10%へ 平成20年3月31日まで
売却益 20%⇒10%へ 平成19年12月31日まで
売却益 株式投資信託の売却損と損益通算 期限なし
売却損 3年間の繰越し 期限なし
  しかし、今回の上場廃止に伴って、4月15日以降は上記の減税策はすべて使えないこととなる。これは、個人投資家にとっての実質的な増税となり、税金という点からも個人投資家の投資対象となる魅力は激減するといえよう。
●  個人投資家への警鐘
  最近のライブドア問題で、非常に気になる点がある。それは、ライブドア株へ投資した個人投資家において、「適切なる投資行動」とは言いがたい行動をとっている投資家が多数存在すると思われることである。加えて金融機関の販売担当者においても、個人投資家へどのような販売を行っているのか疑問に思うような販売が行われているのではないかということである。
  当然株式投資は、預金や債券と比べハイリスクであり、投資のリスクとリターンは投資家に帰属(いわゆる「自己責任の原則」)することとなる。その一方で、金融機関担当者は、投資家の経験、リスク許容度に合わせた商品の提案を行い販売することが求められる。これは「適合性の原則」と言われ、2つの原則は表裏一体のものといえる。
  最近のライブドア問題においては、「退職金のほとんどをライブドア株へ投資した投資家」「信用取引によって、ライブドア株で数千万円の借金が発生した投資家」「数億円の損失が発生した投資家」などがよく報道されている。信用取引などは、機関投資家などがすでに保有する投資リスクのヘッジ手段として活用するいわば料理でいう「調味料のような投資手法」であり、個人投資家が気軽に活用する手法とは思えない。仮に、ネット証券などでいかにも手軽に投資できるような広告があったとしても、通常の株式投資よりさらにリスクをとった激しい運用手法であることには全く違いがないことを個人投資家はもっと認識すべきであろう。
  また運用資金に関しても退職金などは、老後の生活資金の要素が極めて強く、安全性の高い金融商品での運用が優先されるべきであり、過度な株式投資は通常の個人投資家は避けるべきであろう。日本経済が復活の兆しが見え始めて、株式市場が低迷から成長へと変化しても、退職金で株式投資を行う比率が飛躍的に高まるという理屈は成り立たない。
  ライブドア株は、1株を大量に分割し株主を増やしてきたが、分割を行うことは、分割前よりも小口の資金で投資することが可能となるということであり、過度な投資は避けるチャンスが増えたはずである。しかし、実際は分割することでさらに価値が上がることを期待した投資家が、さらに買い進めるという逆の行動をとり、それが過度な投資を生むという悲しい結果となった。
  デフレ経済からの脱却も間近に迫り、個人投資家の資産運用スタイルも大きな転換期を迎えつつある。最近発表されるさまざまなデータでも政府が主導する「貯蓄から投資へ」が着実に浸透しつつある傾向が表れている。個人的な考えとしては、世界で米国に次ぐ第2位の個人金融資産を保有する国民が、その個人金融資産の半分以上を超低金利の預貯金で運用するというある種特異な資産運用スタイルから欧米のようにリスクを取りながらリターンを享受するスタイルへ移行していくことは、総論的には歓迎すべき出来事といえる。
  しかし、日本経済が明るさを取り戻し、日本の株式市場もバブル期以上に活況を呈している今だからこそ、金融機関や政府が一体となって個人投資家の「適切な投資行動」を主導しなければ、この投資ブームもバブル期のように一過性のものとなる危険性が十分考えられるのではないだろうか。
2006.04.24
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