>  今週のトピックス >  No.1245
財政・経済一体改革会議がスタート
〜小泉後をにらんだ社会保障改革の布石〜
●  医療制度改革含む各種法案の雲行き怪しく
  昨年の衆院選大勝を背景に、与党が長年押し通したいと考えていた法案が今国会に次々と提出されている。だが、ここへ来て「社会保険庁による年金給付率の偽造問題」がクローズアップされ、小泉首相の「今国会は延長しない」という掛け声と相まって、各種法案成立の雲行きが急速に怪しくなってきた。すでに衆院を通過し、施行スケジュールがほぼ確定的な医療制度改革関連法案でさえも、今後の動向が不透明という状況だ。
  そもそも、なぜこのような状況下で小泉首相は「延長国会なし」を明言したのか。ロシアで開催されるサミットとの兼ね合いという見方が大勢だが、一部では、社保庁問題が絡んだままでズルズルと延長するより、国民に不人気な共謀罪創設などは後任総裁に任せてしまいたいのでは、などという憶測も飛んでいる。だが、今回、官邸側が描いている戦略というのは、もう少し別の部分にありそうだ。
●  社会保障費への切り込み避けられず
  そのカギとなるのが、5月22日に第一回の会合が開かれた「財政・経済一体改革会議」である。小泉政権のライフワークとも言うべき「歳出・歳入の一体改革による財政健全化」については、首相の諮問機関である経済財政諮問会議が主導的立場をとってきた。その重要性に変わりはないものの、歳出削減の方向性について大詰めの段階で障壁が少しずつ大きくなってきたことも事実である。その背景には、社会保障費への本格的な切り込みが避けられなくなってきた点があげられる。
  今回の医療制度改革法案では盛り込まれなかったが、いわゆる保険免責制度(※)の導入や、マクロ経済指標と連動させた医療費の総額管理などの議論はいまだにくすぶっている。そのほかにも、生活保護の抜本的見直しや公的介護保険における利用者負担割合のアップ、さらには社会保障費に特化した消費税アップの議論なども少しずつ声高になってきた。
●  この1カ月が最大の岐路
  だが、これらの「劇薬」は来年の統一地方選挙や参議院選挙などを控える与党にとって、なかなかすべて飲みきれるものではない。議論が錯綜すれば、小泉後をにらんだ反対勢力の動きが活発になる可能性もある。
  そこで、昨年の衆院選によって与党内の反対勢力が弱まっている今、政府と与党が一体となった政策決定機関を立ち上げ、官邸側の経済財政諮問会議の意向を何とか丸のみさせる仕組みを作り上げた。それが「財政・経済一体改革会議」というわけだ。
  小泉首相にとっては、自らの意向をここで与党内に浸透させ、秋の総裁選以降についても新総裁が改革路線の継続を追認せざるをえない状況を作り出したいのかもしれない。その意味では、国会の会期延長など「改革会議」の足元を縛る要素は、少しでも排除しておきたいということになるだろう。
  ちなみに、同会議の議論を受けて6月中に取りまとめる予定だった「骨太の方針」は、社会保障協議の遅れによって7月に先送りとなったが、これは次年度予算とセットで提示することを狙ったと推測される。それだけ、政府と与党が一体となった政策運営の仕組みを強化したいという意向の現われでもある。
  与党にとって今年最大のイベントは秋の総裁選といわれるが、実はここ1カ月ほどが実質的な最大岐路になる可能性が高い。
保険免責制度
医療費の一定額までは保険の適用を除外し、全額患者負担にする制度。風邪などの比較的軽い症状によって受診する頻度が高くなると、患者の負担も重くなる。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.06.05
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