>  今週のトピックス >  No.1257
残業代をめぐる改正、企業と労働者に波紋
●  雇用環境の変化に対応するルールが課題
  厚生労働省は6月13日の労働政策審議会労働条件分科会で、「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」を示した。
  この素案では、長時間労働の是正のため賃金に上乗せされる残業代の割増率を引き上げたり、収入が一定以上の労働者を労働時間の規制から外して残業代をなくす仕組みにすることなどが提案されている。
  背景としては、産業構造の変化がますます進む中で、就業形態・就業意識の多様化や少子化の進展などといった雇用環境の大きな変化に対応できるルールづくりが緊急の課題となっていることが挙げられる。
  厚生労働省は7月に中間報告、今秋までに最終報告をまとめ、来年の通常国会に労働契約の新法や労働基準法改正案などの関連法案を提出したいとしている。
●  月30時間超の残業代、割増率は最低50%以上に
  素案内容は、労働者を守るため規制を強化する面と、企業にとって使いやすい人材を増やす面の両方を含んでいる。
  労働者を守るための規制としては、残業時間が月30時間を超える場合には、残業代の最低割増率を現在の25%から50%に引き上げ、長時間残業した人の休日取得を企業に義務付けるほか、整理解雇の乱用を防ぐルールを明確化する内容が盛り込まれている。
  一方、企業にとって使いやすい人材を増やすために、一定以上の年収の人を労働基準法で定める労働時間の規制から外して残業代の適用対象外にする「自律的労働制度」の創設や、解雇を金銭で解決できる仕組みが検討されることになった。
  労使間のトラブルが増加している有期契約労働者の契約についても、やむを得ない理由以外で企業が契約期間途中で解約することを禁止したり、労働契約の始期および終期ならびに契約期間満了後の更新の有無を労働条件の明示事項として追加することなどが挙げられている。
  このように労使双方に配慮した内容ではあるものの、労働者側からは労働時間規制の適用除外を広げる案や解雇の金銭解決といった点に強い反発が出ている。また、使用者側も雇用ルールの厳格化によって人事・労務管理などが規制されることに警戒感を示しており、労使双方の隔たりが大きい現状で今後どこまで調整を図ることができるかが課題となっている。
●  円満かつ良好な労働契約関係を目指して
  今回の労働契約法制および労働時間法制の検討に関連して、重要な労働条件を変更するときには、労使による十分な話し合いの上で自主的な決定が求められる。円満かつ良好な労働契約関係を継続するには、長時間労働を抑制するとともに、労働者が健康を確保しつつ、能力を十分に発揮した働き方を選択できるようにすることが必要だ。
  規制強化を嫌う企業側と、労働者保護を強めたい労働者側の対立点は多いが、今後の対話によって双方に納得のいく内容になることを期待したい。
出所:厚生労働省 「労働政策審議会労働条件分科会 第58回資料」
(庄司 英尚、庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2006.06.26
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