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生計を一にする親族間の取引、経費扱い認めず  最高裁
●  妻である税理士への顧問料は、経費にならない
  弁護士である夫が、税理士である妻に税務顧問料を支払った場合、それは夫の事業所得計算上、必要経費として認められるだろうか?
  これについて最高裁は6月27日、上告を棄却する判決を言い渡した。つまり「夫が事業所得で経費扱いすることは、税務上できない」とする従来の所得税法56条の取り扱い通りの見解を示したのである。
  所得税法56条の該当部分を抜粋しよう。
  「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しない」
  今回、夫はこの内容が法の下の平等に反すると主張したようだが、裁判所は「所得税法56条は憲法に違反しない」と結論付けた。
●  所得税と消費税では取り扱いが異なる
  最高裁の判断の是非はともかくとして(わたしは税制改正が必要であると考える)、これによって所得税法56条の取り扱いがはっきり明示されたので、実務面では今後、生計を一にする親族間での取引により一層の注意が必要だ。
  所得税法56条はもともと、租税回避行為防止のために定められた。例えば親の土地に子どもが店を建て、親に家賃を支払ってそこで商売をするとしよう。もし所得税法56条がなかったら、店が儲かった場合に、子どもは通常より多く家賃を払って意図的に租税回避することも可能になってしまう。そういったことを防ぐために、「生計を一にする親族間では経費処理を認めない」というのが所得税法56条の趣旨なのだ。
  この例で子どもが親に支払った家賃は、子どもの事業所得の計算上、経費にならない。親のほうも不動産所得の収入とする必要はない。
  従って生計を一にする親族間での取引については、事前に税の専門家へ相談が必要であるといえよう。
  なお消費税の取り扱いにも注意が必要だ。というのは、生計を一にする親族間の特別な取り扱いというのは所得税法だけのことだからだ。消費税法ではその行為が「事業として対価を得て行われたもの」であるときには、「資産の譲渡等」に該当するとみなす。先の例を挙げれば、店舗家賃を支払った子ども側では消費税法上「課税仕入」扱いとなり、家賃を受け取った親側では「課税売上」扱いとなるのである。
参考:所得税法(抜粋)
(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)
  第56条 居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
(今村 仁、今村仁税理士事務所代表、税理士、宅地建物取引主任者、1級FP技能士)
2006.07.18
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