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「骨太の方針2006」閣議決定
〜社会保障費への過激な切り込み〜
●  逃げ道が目立つ内容
  今後5年間にわたって財政再建をどう運営していくか。その道筋を示した「経済財政運営の基本方針」、いわゆる「骨太の方針2006」が7月7日の臨時閣議で決定された。骨太の方針は今回で6回目となるが、過去5回に見られるような「経済財政諮問会議をバックに官邸が剛腕をふるっていく」というイメージはだいぶ影を潜めた内容になっている。
  表に出ている数字を見ると、(1)2011年度までに国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス※1)を黒字化、(2)11年度の財源不足額は16兆5,000億円と見積もる、(3)財源不足額を最高14兆3000円億円の歳出削減で埋める、(4)歳出削減のうち社会保障費は1兆6,000億円、公共事業費は最高で5兆6,000円億円圧縮することでまかなう、などという「本当に実現できるのか」と思われる数字が並ぶ。
  だが、よくよく見ると、(1)(2)については名目成長率3%前後を前提にしており、何より11年度には850兆円に膨らむと見られる債務残高(いわゆる国の借金)については言及していない。さらに(3)(4)については、「その時々の経済社会情勢に配慮しつつ歳出改革の内容について毎年度必要な検証・見直しを行なう」という一文が添えられている。つまり、今後の情勢に応じて「どうにでもなる」という逃げ道ばかりが目立つ内容なのだ。
●  ポスト小泉における改革の規模を示す
  そもそも今回の「骨太の方針」は、与党が主導権を握った経済・財政一体改革会議の決定がベースとなっている。基本的な方向性は官邸が示していたとはいえ、来年の参院選を視野に入れる与党の意向が色濃く反映されたことは間違いない。昨年の衆院選で「ほぼ与党内の抵抗勢力は一掃された」という官邸側の声も聞こえてくるが、むしろあいまいさを残しておくことで再び「抵抗勢力」をあぶり出し、それを小泉後の政権離陸の推進力にしていきたいのでは、などと勘ぐってしまう。
  もう一つの見方として、「社会保障費の1兆6,000億円圧縮」などという目標がそれだけ途方もない改革であることを示しているともいえる。毎年、自然増で1兆円ずつ膨らんでいる社会保障費であるが、これまでの医療制度改革、介護保険法改正といった厳しい改革が推進されてきた中で、もはや「これ以上何をしろというのか」という声も厚生労働省の中から聞こえてくる段階に入っている。
●  ねらいは消費税アップだけではない
  そこでついに出てきたのが、生活保護という究極のセーフティネットにメスを入れるということだ。これまで何度か俎上(そじょう)に上ってきたテーマだが、今回の経済・財政一体改革の中身では「持ち家などに住んでいる人についてはリバースモゲージ(※2)などを適用して、担保割れした段階で初めて生活保護の対象とする」などの案が含まれていた。
  そもそもリバースモゲージというのは、生活設計上の選択肢の一つであるが、それが強制的に適用されるとなればわが国における「私有財産にかかわる基本的な権利」の考え方そのものがくつがえされることになる。つい連想してしまうのは、アメリカ型の「住宅を担保に生活資金を借りる」というハイリスクの生活スタイルであり、そこに生じる資産処分にかかわるビジネス機会が目的なのではなどという想像まで膨らんでしまうのである。
  いずれにしろ、現在議論されている福祉目的税としての消費税アップよりも、もっと奥深い所に政争の種が埋まっていると考えた方がいいだろう。その過激さゆえに「当面はあいまいな表現で包み隠す」という意向が働いているとするなら、官邸側にとってかなり巧妙な戦略であると見ることができる。
※1 プライマリーバランス
政策にかかる経費を、その年の税収だけをベースとして「賄えるかどうか」を示した指標
※2 リバースモゲージ
私有する住宅・土地などの資産を担保として、老後における月々の生活資金を借り受ける制度。本人の死後は資産を売却することで、返済に充てる。一部自治体などで制度化される動きがあるが、生きている間に資産が担保割れするというリスクがあることから、なかなか活用には至っていない。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.07.18
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