>  今週のトピックス >  No.1274
定期同額給与の不定期増額、上乗せ部分は損金不算入
●  法律要件から外れた支給形態は損金不算入か?
  2006年度税制改正では役員給与が損金算入できる範囲が拡大・整理された。しかし法律施行後間もないため、実務家の間でも少なからぬ疑問があるようだ。
  その一つに、「月給である定期同額給与について、不定期にある月だけ増額・減額した場合は、増額した上乗せ部分だけでなく根っこから全額損金不算入となってしまう」という点がある。逆に減額した場合も、残りの部分は損金不算入となる可能性があるというものだ。
  この疑問は、国税当局が事前確定届出給与(いわゆる役員賞与)について「事前に届け出た額と実際の支給額が違っていた場合は多くても少なくても全額が損金不算入となる」と明らかにしていることから生じている。要するに、役員給与の損金算入の範囲が拡大された一方で、法律の定めから外れた支給形態は厳格に損金不算入とされる可能性があるのだ。
●  定期同額給与は、改定前も改定後も「同額」が要件
  役員報酬は、金額の改定前も改定後も、不相当に高額な場合など一定の場合を除き、損金算入できる。同族会社の役員報酬の場合、支給時期が1月以下の一定の期間ごと、かつその事業年度の各支給時期の支給額が同額の場合(「定期同額給与」)は、その事業年度の損金算入が認められる。
  各支給時期の支給額が同額でない場合でも、その事業年度開始の日から3カ月以内に改定された場合で、(1)その改定前の(その事業年度内の)各支給時期における支給額が同額である定期給与、および(2)その改定後の各支給時期における支給額が同額である定期給与は、損金算入できる。経営状況が著しく悪化したなどの理由で減額改定した場合も、(1)(2)と同様に同額であれば損金経理できる。
  つまり定期同額給与が損金算入されるためには、例えば月給であれば改定前も改定後も支給額が毎月同額であることが要件となる。だが、ある月だけ一定額を上乗せ支給、または減額支給した場合は、定期同額給与とはいえなくってしまうために全額が損金不算入となるのではという疑問が生じているのだ。
●  恣意的な支給は全額否認の可能性も
  国税庁の法人税実務担当官に筆者が確認したところ、各月によって金額がバラバラに異なる支給形態では個々の事実認定となるが、そもそも定期同額給与とはいえないので全額損金不算入となる可能性はあるとのことだ。しかし、ほとんどの月が同額で、ある月だけ増額した場合は、上乗せ部分だけが損金不算入で残りの部分は損金算入が認められるという。
  問題は減額したケースである。担当官は「実際、そもそも事前に約束した給与を減額する企業があるのか」という疑問を呈していたが、資金繰りがひっ迫してある月だけ満額支給できない場合を想定しても、実務上の一般的な処理では、減額部分を未払金としておいて期末に借入金処理をするので、問題とはならないとの見解である。
  つまり、増額のケースでは上乗せ部分が損金不算入だが、減額した場合の残りの部分は損金算入できるということだ。
  ただし支給額の増減額を何度も行った場合は、元来「同額」部分がいくらなのかといった問題が発生し、同額部分の基準が引き下げられて、それを超えた部分がすべて否認される可能性もある。個々の事実認定ということになろうが、このようにあまりにも恣意的な支給形態は全額否認ということもあり得る。
  当然のことだが、役員給与の決定にあたっては、事前の慎重な定めが必要ということになろう。
(浅野 宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2006.07.24
前のページにもどる
ページトップへ