>  今週のトピックス >  No.1277
老人福祉法・有料老人ホーム規定が改正に
〜規制の網を広げる真の狙いとは〜
●  法律の対象となる施設が増える
  要介護高齢者にかかわる法律といえば、まず思い浮かぶのが2006年4月に改正された介護保険法である。実は、同じ時期にもう一つ重要な法律が改正された。それが「高齢期の住まい」に大きくかかわってくる老人福祉法であり、中でも「有料老人ホーム」にかかる規定が大幅に変更されたのである。
  その具体的な中身について言えば、まずは有料老人ホームの定義が変わったという点だ。これまでは高齢者が入居する施設の中で、(1)高齢者が10人以上入居している、(2)「食事の提供」をしているという二つの条件を満たすものを有料老人ホームとしてきた。
  改正法では、(1)について人数要件を撤廃、(2)についても「食事の提供」だけでなく、「介護の提供」「洗濯・掃除等の家事」「健康管理」という四つの中からいずれか一つが提供されていれば有料老人ホームとしての届けを出さなければならなくなった。つまり、入居者が一人であっても、また食事提供がなされなくても、その施設は老人福祉法による網がかけられることになったのだ。
  ちなみに、特別養護老人ホームなどの老人福祉施設、認知症高齢者を対象としたグループホーム、あるいは一定の居住水準などを満たす高齢者専用住宅などは今回の有料老人ホームの定義からは外されている。ただし、これらはそれぞれ別の法律による規制が行なわれており、その意味ではいずれにしても法による縛りが広範囲に渡ったことになる。
●  民間施設への移行、楽観論だけでは済まない
  今回の有料老人ホームにかかる規制において、さらに注目すべきは、(1)帳簿の作成やその保存、(2)入居者や入居希望者に対する重要事項説明書の交付、(3)入居一時金などの前払金についての保全措置といった事業者側の義務が、法律によって明記されたことだ((3)については2006年4月1日以降の入居者について適用される)。
  これまでも、(1)〜(3)のような義務規定の一部は、「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」によって示されていたが、法的拘束力を持つことでより厳格な適用が期待されることになったのである。
  こうした規制強化の動きというのは、裏を返せば有料老人ホームの市場規模がそれだけ急速に拡大することを織り込み、利用者保護が急がれていることを示す。その背景の一つとして考えられるのが、いま大きな問題となりつつある療養病床の削減であろう。経過措置があるとはいえ、2012年までに現在の約38万床を15万床にまで減らすというこの過激な政策は、受け皿の整備が追いつかないと大変な混乱を呼ぶことは目に見えている。
  その受け皿の一つとして、介護保険における特定施設、中でも有料老人ホームにスポットが当てられている。つまり、低価格でも入居できる小規模型やサービス限定型の施設への移行はますます強まることになり、国としては早めに法的な網をかけておきたいという思惑があるわけだ。
  ちなみに、特定施設における介護保険サービスの報酬は、その大部分が包括型である。包括型というのは財政負担を軽くするための常套(じょうとう)手段であり、社会保障費の圧縮が政策課題となる中で、いわゆる切り札的な性格を帯びている。
  老後の住まいの在り方が多様化し、利用者保護が強化されること自体は、歓迎してもいいだろう。だが、一方で国が保障するべき医療・福祉を「有料老人ホーム」という民間資源に丸投げするという思惑があるなら、楽観論だけで済ますわけにはいかない。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.07.31
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