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会社法の活用で、借入金を資本金に変身させる
  今年5月に施行された新しい会社法は企業経営にさまざまな影響を与えているが、そのうち「借入金の現物出資(DES※1)」が実行しやすくなったことについては、あまり知られていないようだ。これは社長個人の借入金を資本金に振り替えることができる仕組みである。活用方法を紹介しよう。
●  借入金をめぐる社長の悩み
  中小企業の社長と話していると、こんな言葉を聞くことがある。
  「会社の資金繰りが大変だったころ、元社長である父に融通してもらった借入金があるんだが、返済できそうにないな…」
  「個人事業から会社組織にしたときに発生した社長借入金。これに相続税がかかるって本当?」
  「銀行の担当者から『自己資本比率が低いので借入金利が上がります』と言われたんだけど、なんとかならない?」
  こうした悩みの原因は、社長個人からの借入金(社長借入金)の存在である。
●  社長借入金が問題になる場合
  社長個人の立場からすると、この借入金は会社への貸付金となり、帳簿価額全額が相続税の課税対象となる。
  企業から融資を受ける場合にも、この問題がネックとなる。負債である社長借入金が自己資本比率※2を圧迫するため、銀行による融資先格付の低下要因となる。その結果、借入金利が上昇するなど、融資条件が厳しくなるのだ。
  社長借入金があると必ず問題になるというわけではないが、相続税の納税時期が間近に迫っている場合などには、対策が必要である。
●  解決策と注意点
  ここで借入金の現物出資(DES)を活用し、社長借入金を資本金に振り替えるという策を実行してはいかがであろうか。
  「え? そんなことができるの?」という声が聞こえてきそうだが、実は今年5月に施行された会社法によってDESが実行しやすくなったのだ。以前は弁護士・税理士などによる証明が必要であったのだが、新しい会社法では一定の条件のもと、それが必要なくなったからである。
  借入金を資本金に振り替えるということは、借入金がなくなった分だけ増資(第三者割当増資)するということになる(下図参照)。そのため、譲渡制限のある会社でDESを行う際には株主総会の特別決議が必要であり、登記も行わなくてはならない。
  注意点もある。会社法施行に伴い、DESの場合にも時価で増資しないといけなくなったことだ。このため、場合によっては債務免除益課税や贈与税課税の恐れがある。また増資後の資本金が1億円以上となると国税局管轄になるなど、ほかの問題も出てくる。実行に当たっては税理士など専門家のアドバイスのもと、慎重に検討していただきたい。
●  DESのメリット
  DESは、社長個人にとってはもちろんのこと、銀行の融資条件緩和という面でもメリットがある。
  社長個人にとっては、貸付金という相続財産が、株式(資本金)という相続財産に置き換わることになる。相続税法上、貸付金であれば帳簿価額のままの評価であるが、株式となれば評価が下がることになる。つまり、DESが相続税節税対策となっているのだ。
  またバランスシート(貸借対照表)における負債が減少し資本が増加するため、自己資本比率が向上する。その結果、銀行が融資する際の格付アップ、借入金利低下、融資条件緩和につながる可能性がある。
※1 「デッド・エクイティ・スワップ」の略称。デッド(社長借入金)とエクイティ(資本金)をスワップ(交換)するという意味。
※2 自己資本比率=自己資本(純資産)÷総資産。TKC経営指標によると、黒字企業の平均が27%で、赤字企業の平均が−4%となっている。
(今村 仁、今村仁税理士事務所代表、税理士、宅地建物取引主任者、1級FP技能士)
2006.08.07
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