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介護保険の福祉用具貸与で厚労省が通達
〜「貸しはがし」問題は解消されるのか〜
●  用具レンタル、条件によって軽度者も保険給付の対象に
  改正された介護保険制度がスタートして4カ月、現場でさまざまな混乱が起こっていることは、当コーナーでも何回か指摘してきた。中でも、要支援者および要介護1の者(いわゆる軽度者)に対して一部の福祉用具をレンタルの対象から外すという点については、かえって本人の自立を阻害するなどの問題事例が数多く告発されている。いわゆる「福祉用具の貸しはがし」の問題である。
  そうした中、8月14日付で厚労省老健局より「福祉用具貸与費および介護予防福祉用具貸与費の取り扱い等について」という通達が、各都道府県介護保険担当課に向けて出された。その内容は、今回の制度改正の趣旨とレンタルが制限される福祉用具の種類を改めて提示する一方、「ただし、軽度者についても、その状態像に応じて一定の条件に該当する者については、保険給付の対象とする」とし、その要件や留意すべき事項を書き記している。
●  機械的な判断による混乱をなくす
  例外的に給付の対象とする要件については、以下の2点がポイントとなる。
  まず、要介護認定調査の際の項目の一部をもって客観的な判断材料とするということ。例えば、基本調査においては「日常的に自立歩行ができるか否か」を尋ねる項目がある。そこで「できない」と答えた者については、トータルで「軽度者」と認定されたとしても、車いすおよび車いすの付属品については例外的に給付対象とすべきというものだ。
  もう1点は、例えば「車いすおよび車いす付属品」のケースでいうなら、「日常生活範囲における移動の支援が特に必要と認められる者」といったケアの方針にかかわるポイントである。こうした項目は認定調査には含まれていないものだが、今回の通達によれば「主治医の意見を踏まえつつ、サービス担当者会議等を開催するなどの適切なケアマネジメントを通じて、指定介護予防支援事業者または指定居宅介護支援事業者が判断」すべきものという点が明示されている。
  いずれも考えてみれば当然の話なのだが、この当然のことが実施されておらず、現場のケアマネジャーなどが機械的に「レンタル対象外」であることを利用者に伝えているケースが多々発生している。実は、その背景には介護保険料の上昇を抑えたい市町村側の思惑があり、現場のケアマネジャーの判断を大きく左右しているという話もある。
●  介護する家族の労力も考慮した仕組みを
  では、今回の通達で適正な制度運用がなされるのかといえば、疑問点は決して少なくない。通達を熟読して気付くのは、例えば、在宅で家族が介護している場合、その介護者の状況を考慮する項目がまったくないことだ。
  仮に軽度者で「一人で起き上がりができる」人の場合、介護用ベッドはレンタルされない。だが、ベッドがなくなった場合、高齢者世帯はいきなり床布団の生活になるケースが多い。夜間における床布団からの立ち上がりは、時としてふらつきなどの状況が発生しやすく、どうしても介護者の見守りが必要になる。
  もし、高齢者夫婦世帯で見守りする介護者が高齢で一人しかいないとなれば、精神的・体力的な疲労は思いのほか蓄積されやすくなる。つまり、潜在的に「介護倒れ」を生む危険性が高まるわけだ。
  介護保険制度は、その成立当初から「同居する介護者の状況」を考慮した仕組みがない点が指摘されてきた。これはいまだに解消されていない。現実問題として、在宅介護が同居介護者によって担われている状況の中では、そろそろ介護者側の状況(その人数や体力的・精神的な問題の考慮など)を何かしらの形で反映させる仕組みが必要なのではないか。
  間もなく9月30日を迎え、改正前までに認定を受けていた利用者を含め、すべての軽度者について引き続きレンタルできる経過措置が終了する。10月以降、現場がどうなるのか注視していきたい。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.08.28
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