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分掌変更等に伴う役員退職金、適用に注意を
●  分掌変更等に伴う役員退職金の損金算入、認められず
  代表取締役や取締役を退任した者に支払われた金銭が役員退職金に該当するかどうかが争われていた裁判で、京都地裁は「法人税法基本通達9−2−23の要件を満たしていたからといって、無条件に役員退職金に該当するわけではない」という判断を示した(平成16年(行ウ)第34号、大阪高裁に控訴中)。
  これは、特に同族会社において分掌変更を行った際の役員退職金に影響を及ぼすものと考えられ、税務業界の注目を集めている。
●  損金算入の根拠「法人税法基本通達9−2−23」
  ここで、分掌変更後の役員退職金を損金算入する際の条件を確認しておこう。
  分掌変更等により支給した金銭が役員退職金として損金に算入されるケースとして、法人税法基本通達9−2−23では、次の3つを例示している(※1)
 (1)常勤役員が非常勤役員になったこと
 (2)取締役が監査役になったこと
 (3)分掌変更後における報酬がおおむね50%以下になること
  この通達から考えると、例えば代表取締役を非常勤取締役に変更して報酬を半額以下に設定すれば、その元・代表取締役に支払う退職金は損金算入できることになる。実際に退職する前に退職金として損金算入できるのだから、経費の前倒しとはいえ、節税に有効な方法である。
●  退職金の算定では「功績倍率」が問題
  退職金の金額は具体的にはどのように計算されるのだろうか。同族会社では以下の算式が一つの基準になっている。
 最終報酬月額×勤続年数×功績倍率
  これは法人税法上明文化されているものではないが、今では租税裁判にも用いられているため、実務上はこの算式で求められる額以下であれば費用として認められる。
  問題は功績倍率の決め方である。一般的には、比較類似法人(同業他社のうち自社と同程度の規模の法人)の功績倍率の平均値をもって計算する「平均功績倍率法」が用いられる。これまでの判例を見ても、この平均功績倍率法での決着が最も多いが、中には比較類似法人の功績倍率の最高値を使用する「最高功績倍率法」が認められた判例もある。
  ただし、比較類似法人の功績倍率を情報収集することが非常に困難であるため、通常は社長で3倍程度、専務で2.5倍程度を上限として決められることが多い。
●  同族会社での適用には注意を
  分掌変更等に伴う役員退職金に話を戻そう。こうした分掌変更は、同族会社において社長交代時の事業承継等の際に適用されることが多く、形式的に節税のために利用されることがあるのも事実である。
  税務上、役員退職金として認められるのかどうかは、結局「その金銭を受け取った本人が、本当に退職したといえるのかどうか」に尽きる。
  同族会社で、先代の社長が非常勤役員になるようなケースでは、やはりその後も実質的に経営に影響を与えていることが多くある。また報酬を半額にするといっても、その減額後の金額次第では、実質的な退職の有無が問題となることも考えられる。
  今回の判例においても、退職した代表取締役が月95万円の報酬を45万円に減額したため、形式的要件は満たしているのだが、新代表取締役の報酬も同額の45万円であったことなどから、「実質的に退職したと同様の事情にある」という認定はされなかった。
  同族会社で分掌変更による役員退職金を損金算入するに当たっては、これまで以上に慎重を期する必要があるだろう。
●  使用人が役員になる場合
  上記とは逆に、使用人が役員に昇格した際に金銭を支払う場合にはどうなるのだろうか。
このケースでも退職給与規定に基づき、実際に金銭を支払う場合には損金算入が可能である(法人税法基本通達9−2−25。※2)。未払計上が原則として認められないということ以外、特に条件はない。
(※1) 法人税法基本通達9−2−23 (役員の分掌変更等の場合の退職給与)
  法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。
(1)常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2)取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第4号(使用人兼務役員とされない役員)に掲げる要件のすべてを満たしている者を除く。)になったこと。
(3)分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。

(※2) 法人税法基本通達9−2−25 (使用人が役員となった場合の退職給与)
  法人の使用人がその法人の役員となった場合において、当該法人がその定める退職給与規程に基づき当該役員に対してその役員となった時に使用人であった期間に係る退職給与として計算される金額を支給したときは、その支給した金額は、退職給与としてその支給をした日の属する事業年度の損金の額に算入する。
(注1) この場合の支給には、法人が退職給与を支給したこととしてこれを未払金等に計上した場合は含まれない。
(注2) 使用人兼務役員が令第71条第1項各号(使用人兼務役員とされない役員)に掲げる役員となった場合にその使用人兼務役員であった期間に係る退職給与として支給した金額があるときは、たとえその額がその使用人としての職務に対する退職給与の額として計算されているときであっても、その支給した金額は、当該役員に対する賞与とする。
(村田 直、マネーコンシェルジュ・今村仁税理士事務所)
2006.09.11
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