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障害者W杯の状況を見て思うこと
〜障害者スポーツ支援のあり方を問う〜
●  “もう一つのW杯”、日本も出場中
  06年10月より障害者自立支援法が本格的に施行される。障害者福祉に応益負担が導入されたことや、サービス内容や基準の再編成が行われたことなど、さまざまなポイントにおいて障害者の暮らしを大きく揺り動かすことになるのは間違いないだろう。
  そんな中、障害者の自立支援を巡って、もう一つ考えさせられる問題が起こっている。今年前半、世間を揺るがせた話題といえばドイツで開催されたサッカーW杯がある。実はこの8月26日より、やはりドイツにおいて知的障害者による"もう一つのW杯"が開催されているのをご存じだろうか。
  参加国はイングランドやアメリカなど16カ国。前回大会では日本は10位に食い込んでいる。今回も選手のほか、コーチ、監督ら28人が現地へ向かい、まずは7日までの予選を戦っている(初戦は開催国のドイツで、結果は残念ながら3-0で敗戦)。
●  大会が始まっても派遣費用が不足
  問題というのは、この選手等の派遣費用がすでに大会が始まった中で、なお1,000万円近く不足しているというものだ。選手たちは片道の航空チケットしか入手しておらず、いまなお寄付金が募られているのである。
  これまでにJリーガーの中村俊輔選手や岡野雅行選手が、選手を派遣している日本ハンディキャップサッカー連盟に寄付を行ったり、急きょ作成された記念Tシャツの販売によって売り上げの一部を派遣資金に充てるなどの動きがある。マスコミによる報道も少しずつ増えつつあり、関心を持った人からの善意が寄せられつつあるとも伝えられている。
  だが、選手たちに片道切符しか持たせることができず、強化費の削減によって大会前の国際試合でさえほとんど企画できなかったなどという話を聞くのは何とも寂しい。選手たちは、費用の一部について一人当たり10万円程度自己負担しているという話も聞く。
  一方、今年11月にはアルゼンチンで視覚障害者によるサッカーの世界大会が開催される。こちらに至っては遠征費用500万円さえ捻出できず、一時は派遣自体が危ぶまれる事態となった(現在は、アクサ生命が応援チャリティを手がけ、やはりTシャツプレゼントなどの企画によって寄付金を集めている)。
●  日本の障害者政策の弱さを露呈
  そもそもこうした障害者スポーツに関する強化事業は、その運営費の大半を障害者スポーツ支援基金や国庫補助に頼っている。日本障害者スポーツ協会の決算報告などを見ると、寄付金収入は補助金収入の約4割にすぎない。つまり、国の予算編成によって障害者スポーツのあり方は大きく左右されるわけだ。
  スポーツという分野が障害者の自立生活を進めるうえで、貴重な機会になっていることはいうまでもない。だが、今後自立支援法が本格施行されれば、彼らの多くは厳しい経済状況に立たされるケースも出てくるだろう。中には「スポーツなどやっている場合ではない」という人まで出てくる恐れがある。
  そうした時代だからこそ、国が本腰を上げて障害者のスポーツ振興に取り組む姿勢がもっと見られてもいいのではないか。今回のW杯を通じて派遣選手の窮状が世界に知れ渡ることになれば、日本がいかに障害者に冷たい国であるかが露呈されてしまうことになる。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.09.11
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