>  今週のトピックス >  No.1308
偽装請負にみる、雇用契約と請負契約の差異
●  厚労省、偽装請負の監督強化
  最近、「偽装請負」という言葉が新聞紙上をにぎわせている。これは、実態は派遣労働であるにもかかわらず、請負契約を装っている違法行為のことをいう。背景には、受入先企業が労働者派遣法の適用を受ける派遣契約を好まないという風潮が見え隠れする。
  平成16年3月1日に労働者派遣法が改正され、派遣期間が一定期間を経過した場合などには、受入先企業が派遣労働者に対して雇用契約の申し込みをすることが義務づけられた。受入先企業にすれば、派遣契約にすると将来的に発生する雇用契約への切り替えにより人件費が増加するおそれがあることから、あえて請負契約という形態を取ってきた。
  これはれっきとした違法行為である。これまでにも行われていたことだが、実際に摘発された例はあまりなかった。しかし厚生労働省は9月4日、全国の都道府県労働局に悪質な請負事業者の監督を強化するよう通達を出した。今後は偽装請負を行う請負事業者に対し、事業停止命令や事業許可の取消といった厳しい処分が積極的に行われる可能性がある。
●  雇用形態の多様化が影響
  この問題は単に派遣会社や請負事業者だけの問題にとどまらない。派遣業界や請負業界が急速に発展したのは、受け入れる法人側が人件費の変動費化や雇用形態の多様化による組織づくりを推し進めてきたという背景があったからである。
  これまでは通常の雇用契約による正社員というのが雇用の中心であったが、最近は非正規雇用者といわれる契約社員、パート、派遣社員といった勤務形態が増えている。経営者はこれらの違いを理解し、雇用の多様化に対応して正確に使い分けなければ、思わぬ落とし穴にはまる恐れがある。
●  雇用契約と請負契約、税務面の違い
  上記の問題に大きく絡んでくる「雇用契約」と「請負契約」の違いについて取り上げてみたい。両者は取り扱いが次のように異なる。
  所得種類 源泉の要否 消費税 社会保険
雇用契約 給与所得 不課税 あり
請負契約 事業所得 課税 なし
  上記で明らかなように会社側としては、消費税において仕入税額控除ができ、社会保険料の会社負担もない請負契約の方が雇用契約よりも有利である。これを利用した節税方法の紹介もちらほら見受けられる。
  しかし請負契約の方が会社にとって有利だからといって、契約書の名前だけを変えれば雇用契約から請負契約に切り替えられるわけではなく、当然実態が伴っている必要がある。その判断の基礎となるのが主に以下の5項目だ。
判定項目 雇用契約 請負契約
他人が本人に代わって代替又は代理ができるか ×
使用者の指揮命令に従って仕事をするか ×
仕事が完成しなければ、報酬がもらえないか ×
仕事に必要な作業用具等が支給されるか ×
就業場所や就業時間が拘束されているか ×
  明らかにどちらに該当するかの判断ができる場合は別として、判断が付きかねるときには、雇用契約と請負契約に該当する項目をそれぞれ検討し、総合的に決定することになる。
  ほかにも、請負契約であれば税務署に開業届出書を提出し、事業所得として確定申告しているといった形式的な手続きも必要であろう。
  いずれにしても、新規の契約社員について検討する場合は別として、既存の社員を雇用契約から請負契約に切り替えて節税するという行為に関しては、大幅に勤務形態が変わるなど、よほどの合理性がない限り税務署は認めないと認識しておいたほうがよいだろう。冒頭の偽装請負の件から考えても、今後監視の目が厳しくなることは間違いない。それは請負業者等に限ったことではないはずだ。
  契約する本人から見ても、契約切り替えによってその後の雇用に対する不安のほか、所得税、将来の年金および退職金がどうなるのかといった問題もある。契約時には双方納得の上で、内容をよく吟味する必要がある。
(村田 直、マネーコンシェルジュ・今村仁税理士事務所)
2006.09.25
前のページにもどる
ページトップへ