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日比の経済連携協定が締結
〜看護師・介護士受け入れの行方に注目〜
●  フィリピンの看護師・介護士が日本へ
  小泉首相は9月9日、フィンランド・ヘルシンキにおいてフィリピンのアロヨ大統領と会談し、日比2国間における自由貿易協定(FTA)を柱とした経済連携協定(EPA)を締結した。日本がEPAを結ぶのはシンガポールなど3カ国に次ぐものだが、今回は日本として初めて労働市場の一部開放を盛り込んだことが注目されている。具体的には、フィリピン側の看護師と介護士を一定条件のもとで日本に受け入れるとしたものだ。
  両国のEPA交渉は04年に大筋合意に達したものの、具体的な中身については両国間にいつかの大きな溝があり、締結までに約2年を要することとなった。隔たりが大きく交渉を難航させたポイントの一つが、この看護師・介護士の受け入れである。
●  学歴、資格、日本語能力など厳しい条件
  フィリピン側は当初1万人規模の受け入れを望んでいたが、日本側がこれに難色を示し、結局は当初2年間で看護師400人、介護士600人の計1,000人の受け入れを図ることで合意した。だが、フィリピン側が全面的に納得したわけではない。人数面の格差以上に不満の声が上がっているのは、受け入れに際しての条件の厳しさである。
  介護士を例にとるならば、まずフィリピン国内で4年制大学を卒業することが前提となり、日本に入国した後、就労当初は日本の国家資格(介護福祉士)の取得を目指すまでの実地研修という名目になる。その後、資格が取得できれば、長期滞在・就労が可能になるが(ただし3年ごとの更新制)、仮に資格取得がならなければ、帰国せざるを得ない。
  それ以上に厳しいのが、今回の協定において掲げられた「日本語研修」である。まず入国段階で日本語能力が量られ、一定レベルに達しない場合、海外技術者研修協会(AOTS)において6カ月間の日本語研修を受けなければならないのだ。その間、住居や食事は提供されるが原則無給である。しかも研修施設が東京、横浜、大阪といった大都市に限定されており、受け入れ人数に限界があるために第2弾、第3弾の受け入れがどこまで可能なのかが不透明という事情も懸念されている。
  確かにチームケアなどが大前提となる中で、日本語によるコミュニケーション能力は無視できない。だが、6カ月間というのはあまりに長過ぎないだろうか。せめて初期段階の集中的な研修は3カ月程度とし、その後は実地研修を行いながら、その地域における民間の日本語研修施設などを活用するといった柔軟な方法を取り入れてもいいはずだ。
●  海外人材活用をきっかけに現場の待遇改善を
  そもそも、いまだ国内では厚労省を中心として外国人介護士・看護師の受け入れに大きな抵抗がある。だが、介護・医療現場の人手不足がどこも深刻なのは事実であり、就労環境も依然として過酷な状況が続いている。
  むしろ、こうした海外からの人材受け入れを活発化させることが、現場における待遇や就労環境の状況を表面化させ、国民全体の関心を向けるきっかけになるのではないか(事実、労基署なども神経質にならざるを得ないであろう)。
  つまり、一つの“黒船現象”として医療・介護現場の改善につながっていくという考え方である。その流れに沿えば、厚労省などはただ懸念を表明するだけでなく、「外国人労働者の受け入れに際しての現場における指針やマニュアルづくり」といった、一歩先をにらんだ施策を積極的に打ち出していくことも必要なのではないだろうか。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.09.25
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