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オーナー経営者から見た、法人税と所得税の有利判断
●  今年度、法人税収が所得税収を逆転か?
  景気回復に伴い企業業績が好調に推移しているため、今年度の法人税収(一般会計)は13兆円を超える見込みで、18年ぶりに所得税収を上回る可能性も出てきたという報道があった。20日にはトヨタが今期中間決算の営業利益を前年同期比81%増の5,400億円と発表したばかりだが、上場企業の業績はめざましい回復を遂げており、それが税収にも大きく影響している模様だ。
●  法人税かそれとも所得税か
  逆に納税者サイドから見た場合、法人税と所得税の間にはどのような関係があるのだろうか。これをオーナー経営者の立場で考えてみよう。
  例えば、あるオーナーが経営する同族会社でオーナーの役員報酬を取る前の利益が毎期5,000万円見込まれるとする。この場合、オーナーの税金の支払い方には2種類ある。
ケース1:平均的な役員報酬を取り、残った利益に対して法人税を支払う。
ケース2:法人税がかからないよう、役員報酬を5,000万円取る。
  オーナー経営者にとっては、どちらが有利だろうか。簡単に試算してみよう。
○ケース1
  計算を簡便にするために役員報酬を0と仮定すると、法人税等(地方税含む)が5,000万円×約40%=約2,000万円かかる。また同族会社は一定の場合を除き、同族会社の留保金課税がかかるため、ケースバイケースではあるが、上記の金額からさらに約70〜120万円の税金が加算される。合計で約2,100万円の税金である。
○ケース2
  このケースでは、5,000万円の役員報酬を取るため、法人の利益はゼロになる。しかし今年の税制改正でいわゆる「実質一人会社課税」が導入されたため、ほとんどの同族会社はこの制度の対象になると思われる。よってこの適用を受けたと仮定すると、役員報酬の給与所得控除額420万円に対して法人税等が約30%(軽減税率を前提とする)かかるため、法人税額等は約130万円となる。
  その上、5,000万円の役員報酬に対して、給与所得控除後の金額に所得税と住民税が50%かかる。その金額が約1,910万円になるため、法人税との合計で約2,040万円の税金になる。
○ケース3
  さらにケース3として、役員報酬を2,500万円(利益の半額)取る場合を考えてみる。この場合にも「実質一人会社課税」の対象になる可能性は高く、それを織り込んで計算すると、法人税等(地方税含む)が(2,500万円+給与所得控除額295万円)×約38%=約1,062万円かかる。2,500万円の役員報酬に対しては、ケース2と同様に約723万円の所得税と住民税がかかるため、税額合計は約1,785万円になる。
  以上をまとめたのが以下の表だ。
  法人所得 役員報酬 法人税等 所得税等 税額合計
ケース1 5,000万 0 約2,100万 0 約2,100万
ケース2 420万 5,000万 約130万 約1,910万 約2,040万
ケース3 2,500万 2,500万 約1,062万 約723万 約1,785万
(注1)法人税等の税率は全て実効税率として計算している。
(注2)所得税を計算する際の所得控除は200万円とする。
(注3)ケース2、ケース3では「実質一人会社課税」の適用を受けるものとする。
(注4)ケース3では当期留保金額が2,000万円以下になるため、留保金課税は考慮していない。
●  結論 ――法人と個人で半分ずつ利益を分けるのが最も有利
  ご覧のとおりケース3、つまり法人と個人で半分ずつ利益を分け合う形にするのが、最も有利だ。
  ケース1だと税金が高い上、現実的にも実現の可能性は低い。ケース2の場合では税額もさることながら、そもそも5,000万という役員報酬自体の金額の妥当性を問われる可能性が高い。またオーナー個人には資金が残るが、法人には資金が残らないため、法人本体の資金繰りが回らなくなる恐れがある。やむなく法人の資金繰りのためオーナーから法人へ貸付を行ったとしても、貸付金の返済ができないままオーナーの相続が発生すると、貸付金の全額に対して相続税が課税される。
  それに比べ、ケース3では税金が少なくなる上、オーナー個人も一定の収入を確保でき、かつ法人にも利益を留保できる。企業が継続して成長していくためには利益を留保していくことが必要不可欠であり、それがなければやがては自己資本比率の低下から債務超過に陥る。当然金融機関や取引先等の評価も厳しくなり、事業継続は難しくなる。
  オーナー企業の役員報酬を決める際にはこれらも考慮の上、ここに挙げたシミュレーションを参考にしていただきたい。
(村田 直、マネーコンシェルジュ・今村仁税理士事務所)
2006.10.02
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