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アパート建築に係る消費税還付スキーム、来年度改正検討か
●  政府税調、アパート建築に係る消費税還付事案を問題視
  会社法の創設に伴い、「特殊支配同族会社の業務主宰役員給与の損金不算入」など抜本的な改正がなされた平成18年度税制改正は記憶に新しいところだが、ここにきて早くも来年度の税制改正項目が浮上してきた。消費税の還付についてである。
  改正項目に含めるかどうかで今検討中と伝えられているのが、アパート建築の際の消費税還付スキームだ。コンサルタントや税理士がアパート経営者を対象に提案する例が増え、最近ではかなり普及してきている。
  この還付事案は当初、国税庁側が「現行法上認めざるを得ない」として容認されてきた経緯があるが、最近の還付事案の件数の増加に対して、やはり当局として何らかの対策を講じざるを得なくなったようだ。
●  消費税の基本的な仕組み〜その1
  消費税還付スキームを説明する前に、まず消費税の基本的な仕組みについて簡単に復習しておこう。
  消費税においては原則として、課税売上の5%に相当する仮受消費税から課税仕入の5%に相当する仮払消費税を控除した金額が納税額になる。このとき仮受消費税より仮払消費税の方が大きければ、消費税は還付になる。課税仕入の中には経費項目だけではなく、資産項目であるアパートの建築費用なども含まれる。
  ここまでは何も問題ない。しかし、ここからが消費税の複雑なところである。売上の中には消費税法上、「課税売上」になるものと「非課税売上」になるものとがある。不動産賃貸の場合、事業用のテナントなどの家賃は「課税売上」であるが、居住用の家賃は「非課税売上」である。もちろん「非課税売上」である居住用家賃に対しては消費税がかからない。
  この場合、全売上に占める「課税売上」の割合(以下「課税売上割合」という)が95%未満になると、仮払消費税の一部が仮受消費税から控除できなくなる。
●  消費税の基本的な仕組み〜その2
  課税売上割合が95%未満になった場合の消費税の計算方法は二つある。
  一つは「個別対応方式」という。これは課税仕入を「課税売上のために必要としたもの」、「非課税売上のために必要としたもの」、「両方に必要としたもの」の三つに区分し、「非課税売上のために必要としたもの」については、控除対象となる課税仕入からその全額が除外されるものだ。「両方に必要としたもの」については、課税売上割合分だけが控除対象となる課税仕入に含まれる。
  もう1つは「一括比例配分方式」という。これは課税仕入を区分することをせず、課税仕入全額のうち課税売上割合分だけを控除対象となる課税仕入とする方法である。
  要するに「『非課税売上』が増えた場合には、課税仕入のうち課税売上に対応する部分しか控除を認めません」ということである。消費税を納税する必要がない「非課税売上」に対して課税仕入の全額控除を認めてしまうと、消費税が大幅な還付になり、他の納税者とのバランスが取れなくなるため、それを抑制するための規定である。
●  アパート消費税還付スキームの実態と今後の対応
  居住用アパートを賃貸する場合、通常は大部分の売上が「非課税売上」になるため、「課税売上割合」は限りなく0%に近くなる。この場合には「個別対応方式」でも「一括比例配分方式」でも課税仕入はほとんどなくなってしまう。つまりどれだけ多額のアパート建築費用がかかったとしても、消費税の還付はほとんど受けられないということになる。
  ここでいよいよ還付スキームの出番になる。賃借人を入居させると「非課税売上」が発生してしまうため、入居前に何か「課税売上」を作り出し、一時的に課税売上が100%の状況を作り出す。その時点で課税期間を区切って消費税を申告すれば、課税売上割合は100%であるため原則どおり消費税の還付が受けられる。「課税売上」を作り出す手段としてよく使われるのは、自動販売機収入や駐車場収入である。
  つまり、入居者が入居を開始する前に意図的に自動販売機等の課税売上を発生させ、消費税の還付を受けるというのがこの還付スキームの概略である(実際にはほかにも実施すべき手続きや注意すべき点はあるが、ここでは省略する)。
  税制調査会は、この「意図的に」課税売上を発生させるという部分に着目し、租税回避行為として対応を検討しているようだ。
  この還付スキームにはほかにもバリエーションが考えられ、どこまでが規制の対象となるのか、またそもそも改正になるのかすら、まだ分からない状況ではある。だが適用を検討している場合は、できれば年内中に実施したほうがよいかもしれない。
(村田 直、マネーコンシェルジュ・今村仁税理士事務所)
2006.10.10
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