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サービス残業、是正指導企業数は増加気味
●  割増賃金は前年度並み
  厚生労働省は、2005年度において労働基準監督署が賃金不払い残業(以下「サービス残業」※1)の是正指導を行った事案の状況をまとめた。
  それによると是正企業数は1,524(2004年度は1,437)で、対象となる労働者は167,958人(2004年度は169,111人)。支払われた割増賃金の合計は232億9,500万円(同226億1,314万円)に上った。これは1企業当たり1,529万円(同1,574万円)、労働者1人当たり13.8万円(同13.4万円)の計算となる。
  ちなみにそれ以前の状況をみると、1企業当たりの割増賃金は2001年度で1,328万円、2002年度1,796万円、2003年度2,016万円だった。是正企業数は2001年度613件、2002年度403件、2003年度1,184件である。
  以上をまとめると、是正企業数や1企業当たりの割増賃金など2003年度から急増したことが分かる。是正企業数はそれ以降も増加傾向にあるが、1企業当たりの割増賃金は2004年からはほぼ横ばいになった。厚生労働省の指導が厳しくなっているのに伴い、企業は以前に比べサービス残業の増加を抑制しているとみられる。
●  厚生労働省の対応強化策
  対応の取りかかりとして厚生労働省は2001年、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を策定し、各都道府県労働局に通知した。
  主な内容は次のようなものである。
  • 使用者は単に労働時間だけでなく、始業時刻・終業時刻を記録すること
  • 始業・終業時刻の記録は、労働者の自己申告ではなく、使用者自らが記録するか、タイムカードなどで客観的に記録すること
  • やむを得ず自己申告となる場合は、時間外労働時間の上限を設定しないこと
  • 労働時間の記録書類は3年間保存すること
  こうした基準を徹底するために毎年事業所の指導を行っているわけだが、それでも違反事業所は年々増加してきた。2000年度の違反事業所数は監督実施事業場数の29.0%、2002年度で同32.9%、2003年度は同37.8%にも達したのである。
  これを受けて2003年、新たに「賃金不払残業総合対策要綱」と「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」が策定された。
  「要項」のポイントは以下の通りである。
  • サービス残業解消のキャンペーン月を設定し、労使の取り組みを促す
  • 重大悪質なサービス残業については積極的な司法処分を行う
  • サービス残業重点監督月間を設ける、など取り締りを強化することで、サービス残業の解消を目指す
  一方、「指針」では次のような具体的な方策も盛り込まれた。
  • 36協定(※2)の一方の当事者でもある労働組合に対してもチェック機能の役割を求める
  • 「サービス残業は仕方ない」という企業風土を企業トップ自ら否定する
  • 人事評価の項目にサービス残業の管理状況を盛り込む
●  指導が入る前に早急な対策を
  是正企業数はやや増加傾向にあるものの、上記の指導によって、支払われた割増賃金の合計額や1企業あたりの割増賃金支払額は前年度比で落ち着きを見せており、サービス残業の増加には一応の歯止めがかかっているようだ。
  厚生労働省は残業自体を否定しているのではなく、残業時間の把握と賃金の適正な支払いを求めるという現実的な指導を行っている。是正指導が入ると今後の企業活動にも支障が出ることも懸念されるため、サービス残業の実態がある企業は、早急な対策の立案が求められる。
※1 所定労働時間外に労働時間の一部または全部に対して所定の賃金または割増賃金を払うことなく労働を行わせること。
※2 法定の労働時間を超えて労働(法定時間外労働)させる場合、または法定の休日に労働(法定休日労働)させる場合には、あらかじめ労使で書面による協定を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要。これが労働基準法第36条に規定されていることから、この協定のことを通称「36協定」という。
出所:国税庁「民間給与実態統計調査」(平成17年他)
(可児 俊信、ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、
CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2006.10.16
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