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破たん企業に「再チャレンジ」支援案  ―中小企業の倒産回避対策を考える
●  経済産業省が「再チャレンジ支援策」で新方針
  経済産業省は、破たん企業に対して新たな低利融資制度や信用保証協会による保証制度を設ける方向で検討を進めている。安倍内閣の改革の目玉である「再チャレンジ支援策」の一つとして進められているようだ。
  一例として、「営業戦略の失敗などにより破たんに追い込まれたものの、技術力で復活する見込みがある」、あるいは「取引先の連鎖倒産に巻き込まれた」という企業などに対して中小企業金融公庫が低利での融資を実行する制度が挙げられている。そのほか、民間金融機関が破たん企業に融資する際、信用保証協会による保証制度を設けることなども考えられている。
  しかし金融界からは「リスクが大きすぎる」として反発を受けており、今後の見通しは明らかになっていない。
●  連鎖倒産への事前対策
  制度の是非はともかく、やはりこれはあくまで事後救済策であるという点は否めない。企業においてはこのような事態に陥らないためのリスク管理が当然必要である。
  ここでは、連鎖倒産に対するリスクヘッジ手段として三つの方法を紹介したい。
○損害保険の活用
  損害保険会社には「取引信用保険」という商品がある。売上高によって一定の保険料を支払うことで、倒産した取引先に対して有する売上債権の一部が保険金でカバーできるという保険だ。例外もあるが、原則としては自社の全取引先が対象となる。保険会社を通じて取引先の信用状況を把握でき、いざというときにも売上債権の貸倒れを防ぐことができる。しかし利用できるのは比較的大規模な法人に限定されている場合が多く、保険料も高額になるというデメリットがある。
○ファクタリングの活用
  「ファクタリング」とは、自社が有する売上債権をファクタリング会社に譲渡することで、資金の早期回収を図ることができるシステムである。取引信用保険と違い、個々の取引先に対して設定できる。メリットとしては、売上債権をオフバランス化することで財務体質が良くなり、資金繰りも改善され、貸倒リスクも回避できるという点がある。ただし手形割引より高い手数料がかかり、債権譲渡の事実が取引先にも通知されるというデメリットもある。また、そもそも最初から与信に不安のある取引先には利用できない。
●  中小企業に適したリスクヘッジ手段
○中小企業倒産防止共済の活用
  最後に紹介するのが、中小企業倒産防止共済の活用である。
  これは一定の中小企業者のみが利用できる制度で、月額5,000円〜80,000円の掛金を6カ月以上支払えば、取引先が倒産した場合に掛金総額の10倍まで(3,200万円以内)の金額の融資が無担保、無保証、無利子で受けられるというものである。掛金総額は320万円が限度となり、融資の返済期間は5年となる。
  メリットは、無担保、無保証、無利子での融資を受けられるという点と、何度でも融資を利用することができるということである(ただし融資に当たっては一定の要件がある)。また掛金が税務上経費として認められ、解約手当金の範囲内であれば貸付が受けられるという利点もある。
  逆にデメリットとしては、あくまで融資であるため返済が必要であり、保険のようにもらいっぱなしにはできないというところである。
  以上の三つの方法の中で、連鎖倒産の影響を受けやすい中小企業が現実的に利用できるのはやはり「中小企業倒産防止共済」であろう。掛金が経費計上できるため、実質的な負担額は6割程度である上に、反復利用が可能である。
  しかし最も重要なのは、日ごろからの与信管理だ。上記のような方法はあくまでそれを補完するものに過ぎない。取引先に出入りする営業担当者が常にアンテナを張りめぐらせて情報収集することで、少しでも早く倒産の兆候に気付けば、手の打ちようもある。中小企業にとってはそのような営業担当者への教育が最大のリスクヘッジとなるであろう。
(※) 一定の中小企業者とは1年以上事業を続けている以下のものをいう(一部の業種に政令に基づく例外がある)。

・従業員300人以下または資本金3億円以下の製造業、建設業、運輸業その他の業種の会社及び個人。
・従業員100人以下または資本金1億円以下の卸売業の会社及び個人。
・従業員100人以下または資本金5,000万円以下のサービス業の会社及び個人。
・従業員50人以下または資本金5,000万円以下の小売業の会社及び個人。
・企業組合、協業組合など。
(村田 直 マネーコンシェルジュ・今村仁税理士事務所)
2006.10.16
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