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節税がうたい文句の「長期傷害保険」、波紋広がる
●  定期保険などの取り扱いは法基通で明示
  外資系生命保険などを中心に節税をうたい文句に販売してきた「長期傷害保険」をめぐり、波紋が広がっている。この長期傷害保険に係る保険料は全額一時の損金算入が可能なはずだったが、国税庁が5月に「支払保険料の3/4は資産計上すべきだ」との見解を明らかにしたためだ。法人が支払った保険料を一時に損金算入できるのか、それとも一部を資産計上しなければならないのかでは、節税効果が大きく異なってくる。
  まず前提として、企業が定期保険や養老保険などの保険料を支払った場合の税務上の取り扱いを確認しておきたい。これは法人税基本通達で定められている。
  例えば、企業が自己を契約者として役員や使用人を被保険者とする定期保険に加入してその保険料を支払った場合には、次のようになるとされている。
(1)死亡保険金の受取人がその企業である場合は、その支払った保険料は期間の経過に応じて損金の額に算入する
(2)死亡保険金の受取人が被保険者の遺族である場合も、その支払った保険料は期間の経過に応じて損金の額に算入するが、役員や部課長など特定の使用人のみを被保険者とする場合には、その保険料はその役員などに対する給与とする
●  毎年の支払保険料のうち4分の3は前払保険料と判断
  その一方で最近では、企業が役員や従業員を被保険者とする長期傷害保険(終身保障タイプ)も販売されている。これは災害や病気による死亡、災害による障害への保障があるだけでなく、契約の解約などの際には払込期間に応じた返戻金が支払われる。このようなタイプの長期傷害保険の保険料を支払った場合の税務上の取り扱いについては、今まで具体的な定めがなかった。
  そこで国税庁は長期傷害保険(終身タイプ)について、生命保険協会からの照会に文書回答する形で方針を明らかにした。保険加入時の年齢から105歳までの期間の70%に相当する期間にあっては、毎年の支払保険料のうち4分の3を前払金として資産計上し、残額を損金算入すれば問題ない、としている。
  この理由は、「その保険期間の前半において支払う保険料のなかに相当多額の前払保険料が含まれており、各商品の保険料に占める前払保険料の割合の平均値を前払期間の経過にわたってみるとおおむね7割程度であり、4分の3を資産計上した場合であれば平均値を上回る商品においてもおおむね10ポイント程度の乖離に収まっている」というものだ。また解約返戻率が高いことから、事実上、貯蓄型の保険であると判断し、一部の保険料の資産計上を求めた。
●  全額損金算入すれば否認される可能性大
  こうした流れに対応し、一部の外資系生命保険などでは長期傷害保険の満期を95歳や100歳に設定することで「終身タイプではない」として、「全額損金算入できる」と節税効果をPRしていた。しかし、この保険の仕組み自体は終身タイプと変わらない。従って保険料を全額損金に算入した場合、税務当局に否認される可能性が大きくなってきた。
  節税をうたい文句にした長期傷害保険は、現在約10社が販売しており、保有契約は約40万件とされている。契約した企業の中には節税の当てが外れ、解約すれば損をする事態に陥っているところもあり、波紋が広がっているというわけだ。こうした事態を招いた販売姿勢も問題だが、企業側も専門家に相談するなど、慎重な検討が求められるようだ。
(浅野宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2006.10.16
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