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安倍内閣誕生と資産運用
  小泉前首相の自由民主党総裁任期が満了となり、安倍晋三内閣が誕生した。与党内の政権交代だが、組閣により大臣や諮問機関のメンバーが交代したため、政策も変化する可能性がある。この変化は、国内景気、ひいては株式相場や為替相場にも少なからず影響を与えるものである。そこで、今回は安倍政権の誕生で株価や為替などがどのように変化するかについて考えてみる。
●  株式市場への影響
  国内株式市場は、今後も底堅く推移するというのが基本的シナリオであろう。その理由は、順調に推移している国内景気の拡大である。小泉内閣時代の2002年2月から始まったといわれる国内景気拡大は、今年10月で57ヶ月に達し、戦後最長であった「いざなぎ景気」を上回る可能性が高い。今回の景気回復の特長は、いざなぎ景気(65年11月〜70年7月)やバブル景気(86年11月〜91年2月)のように、派手な景気拡大ではなく、輸出産業を中心に大企業の景気回復が中小企業へじわじわと波及する形をとっている点である。しかも、以前の景気拡大と異なり、企業の景気回復が従業員の給与回復に直結しないため、景気拡大の実感をサラリーマンがなかなか実感できないという点は今回の景気拡大の特徴といえる。そうは言いながら、国内企業は欧米の景気回復も相まって最近は相当な力強さで拡大している。しかもここにきて中小企業にも景気拡大が波及しており、その点からも景気が腰折れする可能性は、その材料を探すことのほうが難しいといえる。
  敢えて株価を下落させる懸念材料を挙げるとするならば以下の点だろう。
(1)北朝鮮を取り巻く国際情勢の悪化によって地政学的リスクが増大する。
(2)小泉内閣が推進してきた各種の規制改革に関して、安倍内閣が後退させる政策を発生した場合、現在まで日本株を大幅に買い越してきた外国人投資家から大量の売りを浴びせられることで株価の下落が起こる。
(3)日銀が景気回復を背景に、急速な金利引上げは当面ないという市場の予想以上を覆し、政策金利の引き上げを進めることで、金利上昇に伴う法人・個人の金利負担が増大する。
  中でも、北朝鮮の地下核実験での地政学的リスクは、小泉内閣に比べかなり増大しているであろう。
  しかし、一方で、安倍首相は、初めての訪問国を中国に選び、首脳会談を行うなど、小泉内閣時代に膠着状態となっていた日中関係を大幅に回復させており、今後の経済効果は期待できる。よって、国内景気の回復と日中関係改善の経済効果は、(1)〜(3)の懸念材料を打ち消すには十分の材料であり、トータルでは底堅い回復が予想される。
●  為替相場への影響
  今後の円相場に関しては、政策次第で円高・円安のどちらにも向かう可能性があるので列挙したい。
円高要因
(1)日本企業の好調な輸出により、対米貿易黒字の拡大に伴い、米国との貿易摩擦が発生。小泉内閣のようにブッシュ大統領との信頼関係構築が築けない場合には、急激に米国内で貿易黒字解消のための円高圧力が発生する可能性がある。
(2)中国も米国との貿易黒字を拡大させているため、米ドルに対して元高が進行すると、アジア通貨全体も通貨高圧力が進行する。
(3)国内景気の回復によって、外国人投資家が一層の日本買いを実施することで円高が進行する。さらに、不動産価額の上昇などによって外国の投資ファンドからの資金流入が起これば、一層の円高が進行する。
円安要因
(1)株安要因でも挙げた北朝鮮を取り巻く地政学的リスクの増大によって、国内投資家の外貨保有増加や外国人投資家の円売りが進行する。
(2)安倍内閣の政策が、小泉内閣が進めた公共事業削減等を軸とした歳出削減の道筋を外れ、公的債務の増大の可能性が発生した場合、プライマリーバランスの悪化を原因とした日本国債の格下げなどの懸念が発生。これにより円の信用低下が発生する。
(3)欧米の景気拡大によって、欧米通貨に比べ相対的に円が低金利であるという構図が継続しているため、円で資金調達を行い欧米通貨へ投資するいわゆるキャリートレードが今後も長く継続すれば円安要因となる。
  以上のように、安倍内閣の誕生によって(一部は小泉内閣から継続している要因もあるが)、少なからずマーケットに影響を与える要因が発生しているのは事実であろう。
※当内容に関してはあくまで筆者個人の意見を述べたものであり、特定の金融商品への投資を推奨したものではありません。
2006.10.23
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