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三大金融グループが公的資金返済完了〜法人税納付には至らず
●  三大金融グループが公的資金返済完了
  金融機関の業績が回復したおかげで、各行の公的資金返済が進んでいる。先日10月17日には三井住友フィナンシャルグループが公的資金の完済を発表した。東京三菱UFJ、みずほの両グループは7月までに既に公的資金の完済を済ませており、これで三大金融グループ全ての公的資金返済が終了したことになる。
●  異常事態は続く
  これでいよいよ日本の金融界も異常事態を脱したと言いたいところだが、そうとも言い切れない事情がある。今年の3月期決算で過去最高益を計上した三大金融グループだが、未だ法人税を納付していない。税務上の「青色繰越欠損金」の存在である。
  銀行には過去の不良債権処理でたまった「青色繰越欠損金」がある。現在、「青色繰越欠損金」は法人税法上7年間繰り越すことが認められている。つまり、それ以上の利益を出さない限り、各行は法人税を納付する必要がない。大手行全てが法人税の納付を再開するまでには、まだ当分時間がかかりそうだ。
●  赤字→黒字と黒字→赤字の違い
  ここで、「青色繰越欠損金」の仕組みについて説明しておこう。平成16年税制改正で「青色繰越欠損金」の繰越期間は5年から7年に延長され、平成13年4月1日以降開始事業年度で発生した繰越欠損金からは7年の繰越が認められるようになった。この制度により、赤字から黒字に転換した企業は前期以前7年間の赤字と当期の黒字を相殺することができる。しかし、その逆つまり黒字から赤字に転落した企業が当期の赤字と前期の黒字を相殺することは、原則的に認められていない。
  例えば、前期が1,000万円の赤字で当期が1,000万円の黒字となった企業と、前期が1,000万円の黒字で当期が1,000万円の赤字になった企業。前期と当期の2期を合計した利益はどちらも「0」なのだが、前者の企業は赤字から黒字に転換しているため、「青色繰越欠損金」制度により法人税を納付する必要はない。しかし、合計利益が同じでも後者の企業は黒字から赤字に転落しているため、「青色繰越欠損金」制度は使えず、前期で支払った法人税は取り戻すことができない。
●  「青色欠損金の繰戻還付」の特例
  ただし、それを取り戻すことができる特例がある。それが「青色欠損金の繰戻還付」である。つまり黒字から赤字に転落した場合に、当期の赤字と前期の黒字を相殺することができる。この制度が使えるのは主に次の二つの場合に限定される。
  一つ目は解散や営業の全部譲渡を行った事業年度、会社更生及び民事再生の手続きを開始した事業年度などである。二つ目は資本金1億円以下の中小企業者など(注)の設立事業年度の翌事業年度からその事業年度開始の日以後5年を経過する日を含む事業年度までの各事業年度である。
  前者の場合は特殊事情が発生したときに限られるが、後者の場合は中小企業者として設立し、青色申告を届け出るなど一定の要件を満たせば利用することができる中小企業の特典であるので、是非覚えておいてほしい。
●  「青色繰越欠損金」でも法人税が「0」にならない場合
  一方、中小企業にはメリットばかりでなく、デメリットもある。一部の中小企業では「青色繰越欠損金」以下の利益しか発生していない場合でも、法人税が「0」にならない場合がある。「特定同族会社の留保金課税」である。
  特定同族会社に該当する会社は、利益が一定水準を超えると、「留保金課税」という特別税を支払う必要がある。この特別税は「青色繰越欠損金」があるか否かに関わらず計算されるため、法人税を支払わなくてもよいと油断していると痛い目に会うことがある。中小企業のタックスプランニングを行う際には十分に注意してほしい。
(注)厳密には下記の法人をいう。

 1.資本金又は出資金の額が1億円以下の法人のうち次の(1)、(2)以外の法人
 (1)同一の大規模法人が資本金又は出資金の額の1/2以上を所有している法人
 (2)2以上の大規模法人が資本金又は出資金の額の2/3以上を所有している法人

 2.資本金又は出資金の額を有しない法人のうち、常時使用する従業員が1,000人以下の法人
(村田 直 マネーコンシェルジュ・今村仁税理士事務所)
2006.10.30
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