>  今週のトピックス >  No.1331
回復に向かう中退共年金資産
●  中退共の加入者数は増加傾向
  中小企業向けの退職金制度である中小企業退職金共済制度(以下、中退共)に良い動きが定着した。
  2006年8月末現在の加入状況は、加入企業数384,229社、加入者数は2,834,835名である。2006年3月末時点では、385,079社、加入者数2,758,872名であり、加入企業数は微減しているが、人数は2.8%増加している。この傾向はここ数年続いており、加入企業数は2000年度末の421,708社をピークに年々減少している。一方で加入者数は2002年度末の2,598,824名をボトムにその後は毎年増加している。
  この結果、1加入企業あたりの平均加入者数は2002年度末の6.4人から2006年8月末の7.4名に増えており、規模の大きい企業が入ってきていることが分かる。
  加入者数が増加に転じたのは、2002年4月から適格退職年金から退職金制度を引き継ぎ、資産の移換ができるようになったためである。これは2012年3月で適格退職年金が廃止されることに対する措置である。
●  適格年金から1万社以上が移換
  適格退職年金から資産が移換されて発足した中退共は、2002年度から2006年8月までの期間で10,205社、加入者数では295,320名に及ぶ。特に2005年度は3,986社、124,999名とこれまでの3年間の合計に近い引継ぎ数となっている。引継数が急増したのは、適格退職年金からの年金資産移換を加速するため、2005年4月からは年金資産移換の制限が撤廃されたためである。これまでは、過去10年分の勤務に対応する年金資産だけが移換でき、それを超える金額は移換時点で従業員に分配されてきたが、2005年4月からは全額が移換できるようになったため、年金資産移換が急増している。
  適格退職年金から中退共への引継ぎ企業は、1企業あたりの加入者が28.9人となっており、既存の中退共の7.1人を大きく上回る。これが加入企業数は減りながらも、近年加入者数が増加している大きな理由である。
●  繰越欠損の解消間近
  また中退共は予定利回りを保証していることから、予定利回りと実際の運用利回りの間に逆ザヤが発生していた。2003年度末において中退共の年金資産は2兆9,886億円であったが、その一方で、将来の退職金支払いのための責任準備金が3兆1,706億円に及び、繰越欠損金は2,673億円と、年金資産の1割近いほど膨らんでいた。これは中退共自体の信頼性にも波及するほどであった。
  こうした状況を踏まえて2002年11月には予定利回りが見直され、それまでの年3%が1%に引き下げられ、逆ザヤ縮小が試みられた。
  近年、運用環境が好転してきたことで年金資産の内容も改善している。資産の運用利回りが2001年度は1.77%、2002年度は1.60%と低迷していたが、2003年度は3.52%、2004年度は2.84%、2005年度は8.34%と利回りは改善している。また、実際の運用利回りが予定利回りを超えた場合に支払われる付加退職金についても、2004年度、2005年度とも予定利回りを超える剰余金はすべて付加退職金とするのではなく、剰余金の半分は繰越欠損の穴埋めに回された。保証利率の引き下げ、運用利回りの改善、剰余金での欠損の穴埋めにより、2005年度末では繰越欠損金は854億円に減少し、総資産の2.5%にまで縮減した。
  繰越欠損金が解消し、引き続き適格年金からの資産移換が進めは、中退共への信頼も回復し、加入企業の伸びも期待できる。低迷している中退共もよい方向に向かい始めるかもしれない。
【事業所数と加入者数の推移】
出所:中小企業退職金共済事業本部ホームページ
(可児 俊信、ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、
CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2006.11.06
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