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軌道に乗った「介護サービス情報の公表」
●  「介護サービス情報」の概要
  06年4月より試行された改正介護保険制度において、新たにスタートした仕組みとして、「介護サービス情報の公表」がある。これは、都道府県が主な実施主体となり、その地域にある介護保険事業者および施設についてのサービス情報をまとめ、「介護サービス情報公表システム」というインターネットのホームページで紹介するというものだ。
  公表される情報は大きく分けて2種類ある。1つは職員体制や利用料金といった「基本情報」で、これは事業所・施設が報告したものがそのまま掲載される。もう1つは、介護サービスの中身についての情報だ。こちらは事業所・施設が報告した内容について、都道府県の指定を受けた第三者機関が実地調査を行い、正しければそれを「調査情報」として公開するというものである。
  4月から順次、報告の受付と調査が開始され、この約半年間を経てほぼ出揃った感がある(ただし、東京都や大阪府など大都市圏については、事業所・施設の数が膨大になるため、サービス分野によっては未だ公表0の部分もある)。事業所・施設からの報告は年1回の頻度が義務づけられており、それに合わせて順次更新されることになる。
●  「調査情報」の具体的中身
  利用者側として気になるのは、利用料もさることながら、「どのようなサービスが提供されるのか」という中身の部分だろう。この中身については「調査情報」の項で公表されることになる。調査項目は(1)介護サービスの内容に関する項目(2)介護サービスを提供する事業所・施設の運営状況に関する項目に大別され、それぞれを10区分の中項目に分類、さらに中項目の分類に応じて各サービスの特性を踏まえた具体的な内容が小項目として掲げられている。
  例えば、特別養護老人ホームの調査情報項目を見てみると、「介護サービスの内容に関する事項」(大項目)の中に、「利用者本位の介護サービスの質の確保のために講じている措置」という中項目があり、さらにその中の小項目の1つして「認知症の入所者に対する介護サービスの質の確保のための取り組み状況」がある。この部分の調査確認事項を調べてみると、「従業者に対して、認知症および認知症ケアに関する知識および理解を深めるための研修を行なっているかどうか」といった項目があり、それを確認するための材料として、この研修の実施記録があるかどうかというチェック欄が設けられている。
  確かに職員に対する現任者研修というのは、サービスの質を向上させるうえで欠かせないポイントであり、こうした教育システムの部分にまで踏み込んだ調査を恒常的に行なうというのは評価される仕組みと言えるだろう。
●  今後検討されるべき課題
  ただし、利用者の立場に立ってみると、そもそも「研修」と言われても「どのような研修なのか」は素人の立場ではまず理解できない。研修というからには、一定レベルの質は保たれているのかも知れないが、その中身が不明な中でそれを信頼し切っていいものかどうかは少なからぬ戸惑いがある。
  では、その中身を客観的な情報として公表するにはどうすればいいか。実は、こうしたソフトの部分に関して、わが国の介護サービスは統一的な基準が未だ確立されているとは言いがたい。それゆえに、「マニュアルがあるかどうか」とか「記録が整っているかどうか」という形式面でチェックせざるを得ないのだ。
  「まずは情報公開」の第一歩を踏み出した現在、その調査方法を進化させていくことが今後の大きな課題となるだろう。書類の有無などで満足するような「お役人的な視点」ではなく、「利用者の視点」を尊重した調査ノウハウの確立を進めてほしいと切に願う。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.11.20
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