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退職金税制、来年度改正の論点に浮上か
●  いよいよ税制改正論議が本格化
  最近、税制調査会の動きがにわかに慌しくなってきた。政府税制調査会は来年度の税制改正に、主として法人減税策を検討しているようだ。
  先日、自民党税制調査会の津島会長も同族会社の留保金課税の撤廃について言及している。これからの1カ月で論点が整理され、例年通りでいけば、年内には平成19年度税制改正大綱が発表されるだろう。中小企業経営者には特に目が離せない状況になってきた。
  そんな中、あまり派手な報道はされないものの、改正論点の1つとして退職金税制の見直しが検討されているようなのである。
●  退職金のメリット
  ここで、退職金税制について確認しておこう。
  退職所得の最も有利な点は、その計算構造にある。退職所得は、退職金等の収入金額から退職所得控除額を控除した金額に1/2を乗じて求められる。
  退職所得控除は、勤続年数により金額が変わってくる。勤続年数20年以下であれば、40万円×勤続年数(1年未満端数切上、以下同じ)となり、勤続年数が20年を超えると、800万円+70万円×(勤続年数−20年)となる。上記のように、多額の退職所得控除が認められる上、課税所得が1/2に圧縮されるため、事実上税率は50%以下となる。
  さらに法人との関係でいえば、退職金支給時に多額の経費が計上できる上、役員報酬を減らし、退職金を増やすことで生涯賃金は変わらなくても、個人の所得税及び住民税を減らすことができ、大幅な節税になりうる。
●  時代にそぐわなくなってきた退職金税制
  そもそもこの退職金税制は、終身雇用制度の時代に、長期間の勤務に対する報酬として与えられる退職金を優遇する意図があったと考えられる。しかし、終身雇用制度が崩壊した今、例えば短い勤続年数でも多額の退職金を手にする一部外資系サラリーマンのような人々を、退職金税制で優遇する必要があるのか、といった考えが見直しの根底にはあるのだろう。
  勤続年数を30年と仮定した場合の退職所得控除額は1,500万円となり、いわゆる一般のサラリーマンの退職金であれば、この退職所得控除額を控除しただけでほとんど課税所得がなくなってしまうということも多いだろう。結局1/2課税の恩恵を受けるのは、退職所得控除額以上の退職金をもらっている場合に限られてしまう。
●  改正が行われた場合の影響
  万が一、この項目が来年の改正事項として確定した場合、その影響は計り知れない。特に中小企業では、団塊の世代の経営者も多く、そろそろ退職を考えておられる経営者も少なくないだろう。退職金税制が改正されても、退職金が法人の経費として計上できることに変わりはないだろうが、本人が受け取る退職金に課税される税金が2倍近くに跳ね上がる可能性がある。役員報酬を減らして、退職金を増やすといった節税策も通用しなくなる。
  これを逃れるためには、年内に退職金を支給することも検討する必要があるだろうが、経営者の退職金の場合、金銭の支給だけではなく、株主総会や登記手続なども必要であるため、税制改正大綱が発表になってからでは間に合わない可能性が高い。
  いずれにしても、今後1カ月は税制調査会の動向に目が離せない。
(村田 直 マネーコンシェルジュ・今村仁税理士事務所)
2006.11.27
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