>  今週のトピックス >  No.1348
富裕層に広がる“ラップ口座”の税務上の取扱い
●  富裕層向け“ラップ口座”が急増
  証券会社や信託銀行がいわゆる富裕層向けの投資商品として展開している“ラップ口座”の契約件数が増加している。資産残高も過去最高を更新しているようだ。
  “ラップ口座”とは正式にはSMA(セパレートリー・マネジメント・アカウント=資産運用口座)と呼ばれるサービスのことで、個人が証券会社などにまとまった資金を預け、その運用を一任する商品である。
  運用資金を預かった証券会社は、その資金を株式、債券投資信託などに投資し、その売買のタイミングは全て証券会社側に一任される。手数料は預けた資産残高の一定パーセントが徴収され、売買ごとに支払う必要はない。“ラップ”は“包む”という意味で、顧客の資産運用に関するあらゆるサービスを包括したサービス、といった意味合いが込められている。
●  “ラップ口座”の歴史
  実は“ラップ口座”が商品として販売されたのは、1999年のことである。証券会社が投資顧問業務を兼務できるようになったことにより販売が開始された。しかし、当時はまだまだ規制も多く、手掛ける証券会社も少なかったため、あまり普及はしなかった。
  ところが2004年4月に証券取引法等の改正により、ラップ口座に関する規制緩和が行われ、各証券会社が富裕層向けサービスとして力を入れるようになった。当初は高額だった最低契約額も各社が引き下げを実施しており、現在確認できる“ラップ口座”の中での最も低い最低契約額は500万円にまで下がっている。
  来年以降始まる「団塊の世代」の大量退職を見越して、垣根を低くすることで顧客拡大を狙っているのである。金融庁も、銀行・保険会社への“ラップ口座”全面解禁の検討に入っており、来年以降も契約件数は増加していくと見られる。
●  気になる税務上の取扱い
  ところで、この“ラップ口座”で発生した利益に対しての税金の取扱いはどうなるのだろうか。
  判断のポイントは以下の2点である(租税特別措置法基本通達37の10―2)。
  1. 形式基準
    ラップ口座を通して保有している上場株式などの保有期間が1年以下であるか
  2. 実質基準
    営利を目的として継続的に取引されているか
  基本的には、上記1、2の両方の要件を満たしている場合には、そのラップ口座の所得は株式などに係る事業所得又は雑所得になる。そうでない場合には、株式などに係る譲渡所得になる。
  要するに株式などを売買するという行為が、一過性のものなのか、それとも営利目的で継続的に行われているのか、といったことが判断基準になる。
●  大阪国税局の判断
  大阪国税局は、この“ラップ口座”に関して、「投資一任口座における株取引の税務上の取扱いについて」という文書回答事例を公表している。ここでは、雑所得または事業所得に該当するという判断が下されている。
  もちろん、“ラップ口座”として販売されていても、この文書回答事例の前提条件と著しく異なるものについては、必ずしもこの判断が一律に適用されるわけではないだろう。しかし、今後はこの判断を踏襲した上で、慎重に対応する必要がある。
(村田 直 マネーコンシェルジュ・今村仁税理士事務所)
2006.12.04
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