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介護福祉士制度の見直し案が固まる
〜労働現場の現実に沿った改正は可能か〜
●  介護スタッフの現状
  介護施設職員による窃盗や利用者へのセクハラ・暴言、ホームヘルパーによる強殺容疑のかかった事件など、「介護」という職務に携わる人々の不祥事が続発している。
  知人のホームヘルパーは、(冗談交じりだが)「お前、俺を殺したりするなよ」と言われた経験があるという。
  要介護者にとっては命綱に等しい存在である介護スタッフ、そこに向けられる利用者の根深い不信―。年金、介護、医療など老後のセーフティネットが大きく揺らいでいる時代において、現場を支える「人」への信頼は最後の砦に等しい。それが崩れたときの深刻さは、計り知れないものとなるだろう。
  そうした中、厚生労働省内では、介護現場の中軸を担う「介護福祉士」の制度見直しが着々と進められている。11月に開催された社会保障審議会の福祉部会では、「介護福祉士養成課程における教育内容等の見直し作業チーム」の中間まとめを叩き台とし、有識者による制度見直しの方向性が話し合われた。
  これをもとに年内には取りまとめが行なわれ、来年の通常国会において介護福祉士法の改正案が提出されることになる。
●  見直しの具体的中身
  資格取得までの流れで最も大きく変わるのは、以下の2点である。
  まず、現行では専門の養成施設で教育を積んだ人について国家試験が免除されているが、改正案ではすべての研修課程において最終的に国家試験をパスすることを義務づける。
  もう1つは、現行において実務経験を3年積めば国家試験の受験資格が得られるという流れになっているが、この実務経験3年に加えて600時間の養成課程を受講したうえで受験資格が得られるようにするというものだ。(養成課程に代えて、間もなくスタートする介護職員基礎研修をあてるというルートも検討されている)
  加えて、カリキュラムの内容においては、高度な職業倫理の育成や利用者に対する心理的ケア、あるいは多職種や部下・同僚とのコミュニケーション能力といった、社会性や人間性にかかわる分野での教育を強化していく旨が提案されている。
  部会参加の委員からは「消費者契約にかかわる視点の育成も必要では」という意見が出されるなど、現場で発生している様々なトラブルも視野に入れたうえでの改正が進められていることは間違いない。
●  山積する問題点
  だが、社会性や人間性の底上げを教育課程や国家試験のあり方だけで論じるのは、やはり限界があるだろう。現場における倫理やモチベーションの低下をもたらしている要因の一つとして、低賃金・重労働、および社会における職業地位の低さという問題を無視することはできない。介護という仕事を続ける中で、いかに生活基盤を整えていくかという視点がミックスされないと、今回の制度改正も机上の空論で終わってしまう危険性は大だ。
  実際、今回の改正案を見る中で危惧される点はいくつかある。例えば「実務経験を積みながら、なおかつ養成研修を義務づける」という内容だが、ただでさえ低賃金で働かざるをえない人が多い中で、職場を離れての養成研修を受ける余裕があるのかどうか。(見直し案では、通信教育も可とする提言が収められているが、それでも高度な集中力を必要とする介護という現場で様々なリスクを負わせることにならないかという問題は残る)。
  例えば、養成研修の受講者がいる職場での人員配置に余裕を持たせたり、場合によっては助成金や所得保障などを考える必要も当然出てくるだろう。介護労働の現実をきちんと視野に入れた改正が望まれている。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.12.04
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