>  今週のトピックス >  No.1355
企業を悩ませる健康診断の“二元化問題”
●  健康保険法と労安法の不整合
  2006年に健康保険法が改正され、生活習慣病予防対策が保険者に義務付けられた。具体的には、40歳〜74歳の医療保険加入者(被保険者、被扶養者)に対して、生活習慣病予防を目的とする特定健康診査が義務付けられ、同時に、やはり生活習慣病予防に重点を置いた特定保健指導も義務付けられた。
  一方、労働安全衛生法は、従来から企業(事業主)に対して従業員への健康診断と保健指導を義務付けている。企業にとって、労安法での健診および保健指導と、健康保険法で健保組合に義務付けられた特定健診および特定保健指導は重複したもの、かつ整合性のないものとなっている。
  両者の主な違いは、表に示すとおりであり、法的には別物であるが、企業・従業員から見れば、問題点が多い。
項目 労働安全衛生法 健康保険法
義務者 企業(事業主) 保険者(健保組合)
対象者 従業員 40歳〜74歳の加入者(被保険者、被扶養者)
目的 労働者の安全と健康 加入者の生活習慣病予防
●  健診と保健指導の二度手間
  現状、浮かび上がってきている具体的な問題点は以下のとおりである。
(1)健診項目について
・特定健診の項目(案)と労安法に基づく事業者健診の項目が一致していない
・特定健診・保健指導プログラムで示された問診項目が、労安法では詳細に定められていない
(2)特定保健指導について
・特定保健指導は保険者(健保組合)の義務だが、労安法の保健指導は努力義務にとどまり、両者の関係は明確でない
  両者の健診項目が不整合なままでは、従業員は健診を二度受けることとなり、負担が大きくなる。同時に従業員は企業の保健指導と健保組合からの特定保健指導を二度受けることになる。
  健保組合は新たな事務負担、費用負担となり、企業も事務手続きが増える。
●  企業は一元化に難色
  これに対して、労安法、健康保険法ともに所管する厚生労働省は、従業員の負担を最小限にし、事務手続きを極力簡素化するために省内で調整中である。本来なら健康保険法改正前にやるべき調整をようやくはじめたところである。
  当局は、特定健診の項目を健康診断に盛り込み、企業の主体で健診を行う方針である。費用負担については特定健診項目のうち企業健診との重複部分は企業負担、それ以外は健保組合負担とする。企業は健保組合に事業者健診データを求められた場合は応じなければならない、としている。保健指導については、健保組合が特定保健指導を企業に委託するものと位置付け、健保組合優先とする。
  こうした当局の方針に対して、企業側は、費用負担と事務負担の増加などを理由に難色を示しているという。
出所:「厚生労働省 第2回労働安全衛生法における定期健康診断等に関する検討会」
(可児 俊信 ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、
CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2006.12.18
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