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障害者福祉に960億円の補正予算
〜自立支援法試行2カ月にしてはや迷走〜
●  障害者自立支援法の現状
  障害者自立支援法が本格施行されて、はや2カ月が経過しようとしている。この間、全国の障害者福祉の現場からは、1割の応益負担の軽減や施設・事業者の財政悪化への救済などを求める声が噴出し続けた。
  地方自治体の中には、負担増から3割近くもの人がサービスの利用控えに走っている(実態調査より)事態を懸念し、与野党が一体となって自立支援法そのものに異をとなえるなど、中央政界との“ねじれ現象”も散見される。この10月31日には、全国から障害者福祉の当事者・関係者が国会周辺に終結し、1万5,000人という史上最大規模の抗議行動にまで発展するという光景も見られた。
  そうした中、12月1日に与党側から政府に対し、利用者側の負担軽減と事業者側の財政支援を目的として、3年間で1,200億円の予算措置(このうち960億円は今年度補正予算に計上)を求める要求がなされている。
●  後手に回る政府の対応
  具体的には、いったん廃止した小規模作業所などで発生する工賃の控除の仕組みを復活させるというのが一つ。現行制度では、当事者が作業所を利用した場合、そこで発生する工賃が応益負担によって相殺されてしまうという問題が発生している。工賃控除の復活によって、この“矛盾”を解消しようというのが狙いというわけだ。
  もう一つは、利用者負担を直接的に軽減する方向での支援である。現在、社会福祉法人が運営するサービスを利用した場合に応益負担が半分に軽減されることになっているが、これをNPOや営利法人などへの広げ、さらに減額幅を広げるというものだ。
  現在、安部内閣は新規国債発行額を前年度比で4.5兆円以上減額する旨を表明しているが、景気回復によって6兆円規模の税収増が見込まれる中、財政運営には比較的余裕がある。国民の間に根強い抵抗感がある障害者自立支援法に対し、このタイミングで手を打ちつつ来年の参院選を乗り切り、3年後の法改正まで猶予を確保したいという狙いが見える。
●  高まり続ける国民の生活不安
  では、これで当事者側の危機感は抑えられるかといえば、応益負担そのものの問題点が解消されるわけではない。
  例えば、社会福祉法人のサービスを利用した場合にかかる減免措置であるが、この対象となるのは市町村民税非課税などの低所得世帯に限られる。実は、この低所得世帯にとって大きな懸念材料になっているのが、社会保障費削減の先に潜む生活保護費の削減というテーマだ(すでに母子加算などは3年後に廃止する方針が固められている)。
  家族に障害者がいる世帯は年々高齢化しており、総じて家計の苦しさは増している。そうした中で、生活保護という最後のセーフティネットが揺らぐとなれば、どんなに減免措置があっても「サービス利用」が後回しにされてしまう危険は高い。これでは、制度そのものが、障害者の自立をうながすという理念からは程遠いものとなってしまう。
  3年で1,200億円という規模をつぎ込むのであれば、まずはその予算を障害者本人の所得保障を整えるのに回した上で、家族ではなく本人がサービス費用を支払うことができるかどうかをベースにする「応能負担」に戻すべきではないか。貴重な財源が、制度のほころびを継ぎはぎするだけに終わってしまっては、当事者の理解を得るというレベルにはあまりに遠いと言わざるを得ない。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.12.18
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